現代（2002年？）の夏。
　須羽みつ夫は東京郊外に住む小学五年生の男の子。ゲームが大好きで、今日も友達のかば夫、さぶと一緒に、ゲームボーイアドバンス（風）の対戦ゲームに興じている。みつ夫の勝ちっぷりに苛ついたかば夫にくすぐられているところに、クラスメートのみち子が通りかかった。「弱い物いじめするなんて最低」「どうせかば夫さんにはかなわないんだから」というみち子の言葉に、みつ夫は不満顔。かば夫に飛びかかろうとするが、遙かに届かずつんのめる。
　丘の上の自宅に戻ってきたみつ夫は、玄関口で妹のガン子に呼び止められる。ガン子はみつ夫の服が汚れていることに気づき、ママにご注進する。形勢不利と判断したみつ夫は、そのまま家を離れた。
　この町は新興住宅地らしく、傾斜が激しい。長い階段を降りかけたところで、みつ夫は立ち止まった。木漏れ日の下で、妙な格好の男が居眠りをしている。好奇心に負けて、気持ちよさそうに寝言を言っている姿をのぞき込んでいると、男が目を覚ましてしまった。どうやら急いでいるらしく、かなり慌てている。
　男はみつ夫に気づくと、「君は、地球人だね」と尋ねる。うなずくみつ夫に、男は象牙色の風船を取り出した。「これを膨らましてくれ」というのだ。分からないまま求めに応じるみつ夫。風船を受け取った男はしばし見つめると、パンと割った。そして、満足そうに言う。
「君を、パーマンに任命する」
　男は、傍らに立てかけてある円盤から、何かを取り出して渡そうとするが、みつ夫には何がなんだか分からない。男の説明によると、自分はバードマンという超人で、地球に代理人を置くためやってきたのだという。信じられないという態度のみつ夫に業を煮やしたバードマンは、無理矢理マントとマスクをかぶせると空中へ飛ばした。みつ夫はようやく、何が起こったか理解した。そう、自分はスーパーヒーローになったのだ。
　誕生早々、ジェット機を救助したパーマンの名声は一躍世に広がる。その間にも、バードマンはチンパンジーのブービーを２号に、アイドル星野スミレ（本編では顔が見えないアングル）を３号に、大阪の少年大山法善を４号に、それぞれ任命した。
　しばらくパーマン稼業を続けていると、ズルをする方法も覚えてくる。遅刻しそうな時も、パーマンになればひとっ飛び。そんな１号を、遠くから見つめる目があることなど、気づくはずもない。
　この日は予定が狂い、始業ぎりぎりに学校に到着した１号。ミチ子たちに見つかってしまい、変身を解くタイミングを逸してしまう。その上、みつ夫のカバンを持っているのをかば夫に指摘されてしまう。正体を明かせば動物にされるという約束を思い出した１号は、「みつ夫くんとは友達ですから」と説明するが、みち子には「友達がみつ夫さんでも素敵よ、パーマン」と悲しい言葉をかけられるのだった。
　授業では相変わらず問題ができず、先生にも「パーマンと友達なんて信じられん」と言われる始末。かば夫がそれに油を注ぐように「頭の弱いみつ夫だから友達なんです」と言うので、ファイティングポーズで挑発するが、相手にされずに廊下に立たされる。そこにバッジが鳴り、２号がやってくる。皆の目をかいくぐってコピーを持ってきてくれたのだ。コピーに後を頼み、みつ夫は脱出する。
　１号を呼び出したのは３号だった。連続空き巣軍団を逮捕しようというのだ。いつものように言い合いしながらも仕事に向かうパーマンたちだった。
　その頃、新宿副都心近くのボロビルでは、全日本悪者連盟（全悪連）の理事長、ドン石川が頭を痛めていた。仲間たちは次々パーマンに捕まり、今また、空き巣軍団の部下たちがパーマンたちの餌食になったのだ。ドン石川は温めていた計画を一刻も早く実行しなければいけないと焦っていた。
　一仕事終えて帰宅する１号。突如、彼めがけて一発のミサイルが飛び込んできた。どれほど逃げてもついてくる。１号に辺りを見回す余裕があれば、怪しい科学者風の男が崖の上にいるのに気づいただろう。１号の危機を救ったのは４号だった。ミサイルを鷲掴みにし、意識を失いかけた１号に魔法の言葉を叫んだのだ。
「星野スミレや！」
１号は意識を取り戻し、ミサイルを撃った男は逃げ出した。
　「いい仕事してまんな」
廃棄物処理工場の煙突の上で、４号はミサイルを調べると、丸めてベルトコンベアの上に放り投げた。焦る１号に悠然と言い放つ。
「そのうちにそっちから出てくるやろ」
　４号の本当の用事は、１号への差し入れだった。人気アイドル、星野スミレのCD-ROMゲーム『ときめくLOVE-GIRL』の関西限定版である。１号は狂喜乱舞。早速家に飛んで帰る。コピーと記憶のロードをし終わったところに、ママが上がってきた。最近服の汚れが目に余るというのだ。今日は汚すようなことはしていないはず、と胸を張ったみつ夫だが、煙突の上に座ったことを忘れていた。ママはズボンの汚れを見て悲鳴を上げる。
　その頃、ドン石川は嵐の中に建つ研究所を訪れていた。この研究所の主が、先ほどのミサイルの男、魔土災炎だ。ドン石川は頼んでいた巨大ロボットの様子を見に来たのだ。だが、魔土は足しかないロボットを見せ、「金が足りない」と説明する。そうはいっても、金がないのは全悪連も同じ。パーマンを倒すため、「１号の」パーマンセットを手に入れるため、利害の一致する二人は、ひとまず方策を考えることとなる。
　ようやく落ち着いたみつ夫は、コピーと一緒にスミレのゲームを始めた。ＰＳ２（風）にCD-ROMを差し込む。スミレが自分の名前を呼ぶのにもだえるみつ夫。パトロールに出ても上の空だ。３号はそんな１号の態度が気に入らないが、素顔を見せたこともない彼女の意見は、嫉妬と思われて１号の耳には届かない。３号は１人先に帰ってしまった。
　３号が着いたのはテレビ局のスミレの楽屋。コピーと交代すると、今度公開される映画『美少女天使エンジェルハニー』の記者会見に出席する。スミレは魔法天使ハニー役で、敵のロボット、パパンダーは実物大の上半身が製作されているというのがウリだ。この番組をたまたま魔土が見ていたことから事態は一変する。
　その夜、パパンダーロボットが盗まれた。事態を検討するパーマンたちだが、１号だけは出てこない。ゲームに夢中なのだ。その間にも、事件は着々と進んでいた。下半身の付いたパパンダーロボットが刑務所を襲い、全悪連盟員を救出する。パーマンたちも出動するが、手に負えない。困り果てているところに、１号が到着した。安心したのもつかの間、パパンダーの手に捕まってしまう。魔土のコントロールする指が１号のマスクに伸びる。だが、いきなり１号がマントを付けた人形に戻ってしまった。怒りのあまり暴れる魔土。コピーロボットに身代わり出動させたのだと悟った三人は、足下からすくおうと突撃するが、３号が放り投げられたコピーに気を取られたため、２・４号は踏みつぶされてしまう。勝ち誇ったドン石川は、「次は造幣局の金蔵だ」と息巻くが、魔土はまだ悩んでいた。
「なぜだ、なぜ来ない、１号！」
　その頃、みつ夫はゲームを終えても戻ってこないコピーを心配していた。ＴＶニュースを見て、初めて何が起こっていたか知った時、みつ夫の体が部屋から消えた。
　気が付けば、みつ夫はバードマンと会った階段の上にいた。コピーロボットを持ったバードマンと、戦いに敗れた仲間たちがいる。バードマンはきっぱりと言う。
「君の犯した罪は重い。動物になってもらう」
　パーマン仲間が必死に取りなすが、先に切れたのはみつ夫だった。
「もういいんだ、僕、パーマン辞める。動物にされても絶対辞める」
三人は驚いて引き留めようとするが、みつ夫の決心は固かった。
「勝手にパーマンにされて迷惑してるんだよ。ゲームは自由にできないし、服汚してママには怒られるし。みんなのために辛い思いしたって誰一人感謝してくれないんだもの」
「そんなことはない、みんなパーマンには感謝している」
バードマンの言葉はみつ夫の心に届かない。
「そんなの、須羽みつ夫とは関係ないじゃない。僕がパーマンだって誰にも言えないんだもの」
みつ夫はマスクとバッジを階段に叩きつけると、走り去る。追いかけようとする三人をバードマンは制し、こう言った。
「君たちはパトロールに戻れ。１号の処分は、私に任せてもらう」
マスクを拾い上げたバードマンの表情は悲痛だった。
　翌日。新宿副都心にパパンダーが現れた。今度の目標は造幣局の金蔵だ。自衛隊や警察も出動しているが、歯が立たない。１号以外のパーマンも再び立ち向かおうとするが、やはり敵わない。
　同時刻、現実に逆らうようにスミレのゲームに向かうみつ夫。だが、ざわめく心を見透かすように、３Ｄのスミレが話しかけてくる。
『困っている人がいます。あなたならどうしますか』
みつ夫はCD-ROMを取り出し、クッションを被って雑音から逃れようとする。
　その頃、現場では４号が作戦を指揮していた。パパンダーの足の動きを止め、その隙に２号の６６００倍の歯茎で強化繊維の体をかみ切ろうというのだ。作戦は成功し、パパンダーの威力は低下したかに見えたが、それは一瞬の間だけだった。再び暴れ出したパパンダーに３号がはじき飛ばされ、ビルに腕を叩きつけられてしまう。朦朧とする意識の中で、３号は待ち続けている人の名を呼んだ。
（１号……）
　自室で震えるみつ夫に、３号の声が聞こえた。
「パー子」
　みつ夫は再びＴＶを付けた。町が破壊の限りを尽くされている。
「行かなくちゃ」
　立ち上がったミツ夫の耳に、聞き慣れたバッジの音が入ってきた。それに引きずられるようにベランダに出ると、マスクとマントがある。みつ夫はパーチャクすると、新宿に向かって飛び立った。
（どうしてなんだろう、何の得にもならないのに、僕はどうして……分からない、でも、行かずにはいられないんだ）
　飛び続ける１号の両脇に、自衛隊のF-15が付いた。パイロットが１号に呼びかける。
「翼に捕まりなさい。バードマンという人に頼まれた」
１号は言葉に従うことにする。当のバードマンは背後で全てを見守っていた。
　現場に到着した１号を見た瞬間、パパンダーの中では魔土とドン石川が主導権を握ろうと争いはじめた。だが、操縦担当の魔土と、動力役のドン石川では違いは明白。パパンダーは、１号を捕まえる作戦に出た。
　そんな事情はつゆ知らず、１号は３号の所に向かった。顔を合わせた瞬間、３号の手が１号の鼻の部分に伸びると、マスクの上から顔をひっぱたいた。
「良かった、本物ね」
　そこに、魔土のミサイルが発射された。
「私は一番が好きなのだ、くらえ１号！」
　２号や４号の手も借りて逃れようとするが、改良型ミサイルはしつこく追ってくる。１号はとある仮説に思い当たった。マスクとマントを外すと、ビルの屋上に着地する。案の定、ミサイルは目標を見失いうろうろしている。１号は再びパーチャクすると、今度はパパンダーの頭目がけて飛び込んだ。真下に来た瞬間、マスクとマントを外し、パパンダーの頭部に置く。みつ夫はそのまま落下する。それを見た３号は、腕のケガも忘れて飛び出した。
　ミサイルはそのままパパンダーに飛び込み、自滅した。破れた魔土は、逮捕されても「１号、つよーい」と惜しみない賛辞を贈っていた。
　落下したみつ夫は、３号に庇われたお陰で奇跡的に助かった。あきれたように３号が言う。
「もう、私が間に合わなかったらどうするつもりだったの」
「考えてなかった。……ありがとう、パー子」
「良かった」
３号は安堵したようにつぶやいた。
　戦いは終わった。都庁近くのビルの屋上で、パーマンたちがバードマンに労われている。
「１号、君もよく頑張った。これに免じて、パーマン１号を辞めることを認めるが、どうする」
みつ夫はきっぱり答えた。
「辞めない。どうしてか分かんないけど、パーマンを続ける」
「分かった」
バードマンの声も感極まっている。先ほど救出しておいたマスクとマントを、改めて差し出す。
　五人は下界を見下ろした。大勢の人々が、パーマンたちに歓声を上げている。バードマンは、１号に話しかけた。
「君の分からない気持ちの答えは、この中にあるかもしれないな」
　１号は改めて誓う。
『僕、パーマン。どこまでできるか分からないけど、仲間と一緒に、力の限りがんばるぞ！』

　後日。
　星野スミレの新曲『キミらしいまま』が歌番組で発表された。パンダ風の衣装で歌うスミレの左腕には、なぜか包帯が巻かれていた。