著 大田康湖
バードマン本部と養成学校の間の敷地に５階建ての建物がある。表向きの名前は『銀河連邦職員養成学校付属クラム研究所』だが、バードマンたちは「研究棟」と呼んでいる。
今日もアルマイトは、入口にバッジをかざすと、中に入っていった。そのまま２階に上がる。
建物は３つの部所に別れている。第１開発室は宇宙船の開発がメインで、ほとんどの職員は衛星ドックに詰めている。第２開発室の担当は、パーマン・バードマンセットと精神能力（超能力）コントロールシステム。第３開発室は、パーマン・バードマン活動に伴う小道具担当。イリメン・アソウはこの部屋のコピーロボット開発部副長であった。テーブルの上には「マンジュウ」が山盛りになっている。前回の製作で味を占めたのだろう。
「待ってたよ。どうだった『パーカー』は」
イリメンは待ちきれないという風情で話しかける。アルマイトは空手を広げて答えた。
「すまん、パーマンたちが壊したんでデータが取れなかった」
「そんなぁ。試作品はあれだけなのに」
世にも哀れっぽい声のイリメン。
「あれな、連続変形に耐えられないみたいだから、遊具として売るならもう一度考え直した方がいいぞ」
アルマイトはマンジュウを掴むと、そのまま口へ放り込んだ。
「それにしても、本部が良く開発を許可したな」
「仕方ないよ。世間へのカムフラージュと資金源を兼ねてるんだし。それにデコイとして使えるかも」
「デコイといえば、開発中の感触立体映像装置はどうなったんだ」
話題を変えるアルマイト。
「試作器ができたばかりだよ。ちょっと待ってて」
イリメンは奧の棚からボタンのたくさん付いた機械を運んできた。
「君の円盤の装置に組み込めば動くはずだ。テストよろしく」
「また壊しても知らないぞ」
「そしたら代わりに地球のお菓子でも差し入れてもらうよ」
イリメンが臆面もなく答えたその時だ。アルマイトのバッジが鳴った。渋々バッジを取り出す。
「こちらアルジェ」
「４０星区の宇宙船航路で遭難事故だ。人手が足りないから至急戻れ」
声の主はアレイ隊長だ。
「あの、明日からの休暇は」
駄目元で聞いてみるが、マイクは切れてしまった。
「残念だね。とりあえず道中で食べてよ」
イリメンはマンジュウの山を差し出したが、感触立体映像装置だけで手一杯のアルマイトは、口に押し込むのが精一杯だった。
数日後。アルマイトはまた研究棟にいた。小脇に書類ケースを抱えている。
「こないだはお疲れ様」
イリメンはクッキーとお茶を勧める。
「本当参ったよ。遭難した宇宙船を救助して、地球に寄ったら１号がまたバカやっててさ。まったく、地球人には宇宙の知識がないのかね」
「へーえ、何をやらかしたんだい」
「話すと地球のパーマンの品位が疑われかねん」
アルマイトは憮然としながらクッキーを口に放り混んだ。
「しかし、地球のパーマンたちの好奇心の豊かさにはいつも感心させられるよ。感触立体映像装置の感想も楽しみだな」
「あ、あれか。そのうちな。その代わり、今日は面白いものを持ってきたんだ」
アルマイトは書類ケースから、分厚い雑誌を取り出した。
「地球の漫画雑誌だ。技術はまだ未熟だが、こういう想像力は一流なのが面白い」
イリメンは雑誌をめくり、紙質の悪さに顔をしかめる。
「ところでこれ、君が買ったの？」
「いやあ、ゴミ捨て場に置いてあったのを拝借したんだ。アレイ隊長には内緒な」
アルマイトはクッキーを口元に当てた。
それからしばらくして、ようやくアルマイトが感触立体映像装置の感想を持ってきた。
「あれ、今日は何もなしか？」
イリメンのテーブルの上には、研究中のコピーロボットがいくつか転がっている。どうやら取り込み中だったようだ。
「アッカンベーダ星に出張してたんだって？」
「ああ。水害の復興支援でね。その帰りにちょっと地球へ寄ったら、また問題が起きててさ。めでたく感触立体映像装置が役に立ったというわけだ」
アルマイトはコピーを脇に寄せると、持ってきた装置をテーブルの上へ置いた。
「ただし、色々問題点も見つかった。連続使用すると映像に混乱をきたす確率が高い。もう少し調整が必要だな」
「君のパーマンたちが色々いじくってくれたんだろ。ありがとう」
「ヘコ！ 何で分かるんだ？」
「君の話を聞いていればすぐに推理できるよ。ところで、調整といえば、そろそろコピーロボットのメンテナンス時期なんだけど、替えのコピーが一体しか確保できないんだ」
イリメンの言葉に腕を組むアルマイト。
「一体ずつ運び込むのは面倒だし、何かうまい方法はないかな。あたし向きの」
「うーん、君向きね。この銃は試作品なんだけど、試してみるかい？」
イリメンはアルマイトの物によく似た銃を取り出した。
次にやってきた時、何故かアルマイトは不機嫌な表情だった。
「この銃のせいでとんだとばっちりだったよ。うっかり触れたら、あたしとは似ても似つかないコピーが出来上がってさ」
「それはそれで良かったじゃない。パーマンたちには素顔を知られたくないんだろ」
「だからって、本人より不細工なのは勘弁してくれよ」
アルマイトは顎に手をやった。イリメンはお茶を注ぎながら言う。
「君のパーマンたちのコピー使いが荒いんだよ。やっぱりオーバーホールが必要じゃないかな」
「替えのコピーが一体しか確保されないっていうのがな。正体がばれる危険が高まるし」
「そこを乗りきってもらうのが君の腕の見せ所じゃないか」
持ち上げられていい気になったアルマイトは、ひとしきり考えを巡らす。
「そうだな、パーマンたちには協力行動の訓練とでも言っておくか」
「その意気だよ。じゃ、早速」
イリメンはアルマイトに白いコピーを差し出した。
「４人が使うんだから、たっぷりエネルギー充填してくれ」
「コピーのエネルギーは勝手に充填するから、少し余裕があるくらいでちょうどいいのに」
渋るイリメンに構わず、アルマイトはエネルギー銃を取り上げる。それが後に事件を引き起こすことになるとは、アルマイトには予想も付かなかった。
【完】
【あとがき】
アニメ３００話代前半を中心とした裏話の雰囲気でお読みいただければ幸いです。
