１９８３年４月某日。記者会見場では、星野スミレの新作映画の会見が行われていた。
「スミレちゃん、今度の『女三四郎』には柔道シーンがあるって聞いたんだけど」
記者が尋ねる。
「ええ。スタントなしで演技したいんで、今インストラクターと特訓中なんです。楽しみにしてくださいね」
　会場の隅では、スミレのマネージャーがその様子を見守っている。
「それにしても、今日は記者の数が少ないわね」
マネージャーのぼやきに答えたのは、記者の一人だ。
「みんなパーマンのところに行っているんですよ」
「あの変な少年のことね。まったく、みんな新し物好きなんだから」
　そのつぶやきに呼応するように、記者の一人がスミレに尋ねた。
「強いといえば、今話題のパーマンのこと、どう思います？」
スミレはしばし首をひねると、笑顔で答えた。
「機会があれば、お会いしたいですね」

「スミレちゃん、お疲れさま。明日もよろしく頼むわね」
　マネージャーに送られて、マンションに戻ったスミレは、届いていた夕刊を手に取った。パーマンが火事のマンションで活躍する写真が映っている。
「また一面ね」
　スミレはうなずきながら新聞を広げた。パーマンが登場してからというもの、毎日のようにその活躍が報じられているのだ。スミレもつい目が惹き付けられる。
「見た感じ、私と同じくらいだけど、どんな子なんだろう」
　青いマスクで顔が隠れている分、興味を惹かれるのは当然だが、それ以上に気になるのは、どこから来てどこへ帰るのか、誰も知らないということだった。
「あんな風に気兼ねなく飛べたら、どんなにいいかしら。……って、愚痴ってもしょうがないか」
　スミレは新聞をしまうと、立ち上がった。

　深夜のマンション屋上。運動着姿のスミレが一人、柔道の型を取りながら、トレーニングをしていた。静まり返った街に、スミレの掛け声だけが響いている。
「はぁ、誰も見てないところで大声出すと、スッとするわ」
　汗を拭きながらつぶやく彼女の表情は、普段は決して見せないものだ。そのまま伸びを一つする。その背中から、いきなり声がかかった。
「じゃあ、悪かったかな」
　反射的に振り返ったスミレの目に映ったのは、小さな円盤に寄りかかって立っている男だった。身にまとっているものを見たスミレは、目を寄せて尋ねる。
「あなた、パーマンと似てるけど、ひょっとしてパーマンの、お父さん？」
男はずっこけかけた。
「おいおい、そりゃ誤解だ。あたしはバードマンといって、地球のパーマンの監督者だよ。今日は君に用があって来たんだ」
「私に？」
　驚くスミレに構わず、バードマンは話し続けた。
「ああ。君を、パーマン３号にしようと思ってね」
（これって、ビックリカメラ？）
という疑問がスミレの心をよぎったが、彼女はとりあえずこの状況を楽しもうと決意した。
「お話はわかりましたけど、なぜ私を選んだんですか」
　スミレの問いに、バードマンは一つうなずくと話し出した。
「地球人のパーマンを増やすためにふさわしい人物を捜していたら、君が柔道の練習をしているのが目に留まってね。調べさせてもらったんだ。なかなか楽しかったよ」
「でも、私は」
　スミレの言葉をバードマンが遮った。
「『星野スミレ』だっていうんだろ。だからこそ、君をパーマンにしたいんだ」
「えっ？」
「君はアイドルという器にとらわれずに生きたいと思っているはずだ。そのチャンスを与えよう。正体は仲間にも秘密にすれば、誰に気兼ねする必要もないしな」
　スミレは天から降ってきたような幸運に、呆然とたたずむばかりだった。バードマンは笑顔で言葉を添える。
「それに、君はパーマン１号に会いたいんだろ？」
スミレは心底驚いた。この人は自分のことを隅々まで知っているのだ。だが、不思議と嫌な気はしない。
「そこまでわかっているんじゃ、仕方ないわね。この仕事、受けさせていただくわ」
　スミレの答えを聞いたバードマンは、早速パーマンセットを取り出した。

　数日後。
　３号は夕闇の空をバックに飛んでいた。そこにバードマンの円盤が現れた。３号は円盤に近づく。
「こんばんは」
「張り切って仕事してるようだな」
「コピーロボットが私の代わりをしてくれるお陰よ」
　３号はにこやかに答える。最初にバードマンに会った時よりもリラックスしている感じだ。
「コピーは便利だが、体で覚えたことはフィードパックされない。それだけは気をつけるんだぞ」
「分かったわ」
「ところで、他のパーマンたちとは仲良くやってるかね」
　バードマンの問いに、３号の顔色は変わった。
「そう、そのことなんだけど、バードマン、１号たちにバッジの使い方教えてなかったでしょ。お陰で大変だったんだから」
「あれ、そうだったかな？　すまんな、急いでたんで」
　バードマンはしれっと答えるが、３号は眉をひそめた。
「それで、どうなんだ」
「私を女の子だと思って見下してるのよ。やってられないわ。……まあでも、なかなか骨はあるみたいね」
「程々にしてくれよ。パーマンが増えるたびにケンカじゃ、やってられん」
「まだ増えるの？」
「ま、ぼちぼちな。それじゃ、失礼するよ」
　バードマンの円盤は去っていった。それを見送った３号は、言いそびれた言葉をつぶやいた。
「パーマンになって良かったわ。ありがとう、バードマン」