午前7時。須羽ミツ夫はいつもよりかなり早く目が覚めた。普段は母に起こしてもらってさえ、起きれないのに今日に限って早く目が覚めた。
「あ〜あ〜」
今日は日曜日と言う事もあり、いつもならば正午過ぎまでぐっすり眠り、昼を過ぎると母か妹のガン子がミツ夫を起こしに来るのが当たり前だった。
「なんか、思ったより早く目が覚めちゃったナァ…」
未だぼーっとする頭を抱え、ミツ夫は仕方なしに１階のリビングへと足を向けた。
リビングでは父が新聞を片手にコーヒーを飲んでいた。母は確か、昨夜からガン子を連れて友達の所へ出かけていた。すると背後に感じる気配に気付いたのか、ふと父と目が合った。
「なんだ、ミツ夫。珍しいじゃないか、こんなに早くなんて」
「あ、うん。何か目が覚めちゃって」
「そうか、いい事だ。いつもそうならいいんだがな」
父は満足そうにそう言うと、また新聞に目を戻した。このまま、家に居てもつまらないのでミツ夫は、外へ出る事にした。
「いい天気だなぁ〜」
日曜日の朝もいいもんだなぁ、と改めて思うと朝の日差しを浴びながらミツ夫は歩き出した。歩きながら、普段見なれている景色を、1つ1つ味わいながら歩くと毎日の多忙な日々も忘れられる、そんな気がした。
「平和を守る」と言う与えられた使命を嫌だ、と思ったことは一度も無いが、確かにもう少しプライベートな時間が欲しいと思う事はしばしばあった。コピーロボットが、いくら普段の自分の変わりをしてくれているとしても、どれだけ高性能、万能だとしても、自分の肌、心で感じることはやはり大切だと思うのだ。自分の持っている目や体でその瞬間（とき）に感じたい、と思うのだ。思えば、近頃こんなにゆっくりこの道を「自分の足」で歩いていただろうか？本当の自分を、見ていただろうか…？ふと通りの壁を見たら星野スミレのポスターが貼ってあった。今度彼女が演じるミュージカル不思議の国のアリスのポスターだ。少し長いウィッグを被り、うさぎと向かい合っているポスターはとても同い年とは思えない程、輝いていた。
「かわいいなぁ〜スミレちゃんは」
「あら、ミツ夫さん」
急に自分を呼び止める声が聞えて、ミツ夫は慌てて振り向いた。
「あ、みっちゃん」
その声はクラスメイトの沢田ミチ子だった。
「どうしたの？何処かへお出かけ？」
「ううん、たまには朝の散歩もいいかなぁ、と思って。みっちゃんは？」
「私は、パパとママとお買い物よ」
「そっか、気をつけてね」
「ええ、ありがとう。ミツ夫さんもね」
「うん、じゃあ、また明日学校で」
他愛ない会話を終えると、またミツ夫は歩き出した。すると、ポケットの中から聞き覚えのある音が聞えた。
ミツ夫は、人目が無いことを確認すると、バッチに応対した。
「はい、こちらパーマン1号」
「わいや！高速道路で、玉突き事故や！負傷者が大勢居てる！至急応援頼むわ！」
呼び出しは、パーやんことパーマン4号からだった。
「分かった！場所は！？」
「東名高速のインターチェンジや！はよ来てや！」
プツッ！パーやんからの呼び出しは一方的に切れ、その様子から焦りの色がとって伺える。これは急がねばならない。ミツ夫は、人目につかない場所に隠れると、ポケットからパーマンセットを取り出し、パー着した。
「パワッチ！」
1秒でも早くぱーやんの所に着かねばならない。1号は全速力で急いだ。
現場に着くと、二人のパーマンはてきぱきと事無きを終えた。
「ふぅ、やっと片付いたな。あ、そういえばパー子とブービーは？」
「なんでも、パー子はんは『急な事件があった』ゆうて連絡とれへんし、ブービーはんは風邪で寝込んでるらしいわ」
「なんだろう、急な事件って…」
「わても知りまへんのや。なんや、ここんところパー子はん変でっしゃろ？呼び出しもあんまり応じへんし、わてらの事、避けてるみたいな感じしやしまへんか？…1号はん、何ぞ、パー子はんを怒らせるような事しでかしたんとちゃいまっか？」
「知らないよ！」
「まぁ、これは、わてらのチームワークにも関わる問題や。1号はんパー子はんの事、よろしゅうたのんます。」
「な、何で僕が！？」
「1号はんしか、いやしまへん！ほな、お先にーーー！」
「あ、ちょっと、パーやん！！！！」
一人取り残された1号は、仕方なくパー子に連絡を入れるのだった。
2.
RRRRRRR…
都内、高級マンション。其処に星野スミレの一室はあった。その部屋からけたたましく鳴っている電話のコール音。
その部屋の主はベットに横たわり、ただ、その音を聞いていた。
「･…うるさい」
スミレは、電話の上にクッションを乗せると耳を塞いだ。
電話の相手は分かっている。恐らくマネージャーだ。ここしばらくずっと理由をつけて仕事をキャンセルしているのだ。
『ただ今留守にしております。ご用の方は発信音の後にメッセージをどうぞ…」
電話が勝手に留守電に切り替わった。
「ちょっとぉ、スミレちゃん！？いい加減に仕事出てきてよぉ！スケジュールが詰ってるのよ！？いいわね！？
ちゃんと連絡ちょうだいね！？」
ガチャッ、とマネージャーからの電話は留守電に一方的に録音され、そして切れた。
「ったく…マネージャーもうるさいんだから…」
『仕方ないわよ、スミレちゃんはトップアイドルなんだから…』
と、もう一人のスミレが言った。もう一人の――そう、コピーロボット。
「そうは言うけどね…？」
ビビビビビ…今度はパーマンバッヂだ。
『ホラ、今度はそちらから呼び出しよ？ずっと待ってたんじゃないの？』
「じ、冗談じゃないわよ！どうして私が1号からの連絡を待ってなきゃいけないの！？」
『あら、1号なんて一言も言ってないわよ』
コピースミレにそう言い返されてスミレは言葉にすっかり詰ってしまった。
『ほら、早く出たら？』
「…はい、こちらパー子」
バッヂの相手はすぐに応対した。
「やっと出たね、どうしたのさ、ここずっとキミ出てこないじゃない？何かあったの？」
優しい1号の声に思わず涙が出そうになった。だけど、あの日の事を思い出すとつい、可愛くない口調になってしまう。
「なんでもないわよ！」
「なんだい、人が折角心配してやってるのに！もう知らないからな！勝手にしろ！」
プツッ！1号は怒ってバッヂを切ってしまった。
『もう、スミレちゃんたらー…』
「だって…」
『やっぱり、アノ日の事が気になってるのね…』
「･…ええ」
あの日――あれは丁度1週間前、彼女がパー子になって上空をパトロールしていた時のことだった。都内をぐるっと一周して、ミツ夫の家の近くを飛んでいた時、いつもの公園の上を通った。何気なく、彼女が下を見ると、ミツ夫とミチ子が仲良し気にベンチに座り2人で話しているのが見えた。本当は盗み聞きをするつもりなんて無かったのだがどうしても気になって、2人の近くの大木に降りた。話しは他愛ない世間話しだった。気にする程の内容でもなかったので
帰ろうかと思ったその時、なんとミツ夫とミチ子がキスしたのだ。（実際は、ミチ子の肩に止まった虫を払いのけただけ）
それを見てしまったパー子はショックでそのまま寝込んでしまったのだった。それ以来スミレとしての仕事もパー子としての仕事にも気合が入らず、ずっと塞ぎ込んでしまっていた。
『ねぇ。いっそのことミツ夫さんに聞いてみたら？』
「ええ？！き、聞けないわよそんな事！それに、もし本当だったら私、私…」
『じゃあ、ずっとこのままでいるの？そんなのスミレちゃんらしくないわよ！』
コピースミレは怒って自分で自分の鼻を押して、ただのロボットに戻ってしまった。一人取り残されたスミレは、ただそのまま立ち尽くすしかなかった。
3.
家に戻ったミツ夫は、どうにもパー子の事が引っかかっていた。釈然としない。いつもの彼女ならあんな態度はしない。
『どうしたのさ、ミツ夫くん』
気になったコピーミツ夫がミツ夫に問い掛けた。ミツ夫は事の始終を彼に話した。
『ふ〜ん…いっその事パー子さんに聞いてみたら？？』
「うん…やっぱりそれが一番いいよな…よし、明日パー子に直接聞いてみるよ！」
次の日、ミツ夫はパー子を呼び出した。今度は出てくるまで呼び出しを止めない、と念を押して。その甲斐あってか、しばらくすると彼女がやってきた。
「なによ。話って」
「キミ、何かあったんだろ？」
「何よ。急に！」
「おかしいと思うんだ、君のここんところの態度。キミらしくないと言うか…。ねえ僕にだけでいいから話してごらんよ？だれにも
言わないからさ…」
思わず涙が出そうになった。僕にだけ…君らしくない…こんなにも自分のことを見てくれている、ただそれだけが嬉しかった。
やっぱり、この人が好き、そう思った。あの日の事はきっと何かの間違い、そう思うことにした。
「ぱ、パー子？？」
「…大丈夫、私。明日からちゃんと仕事に出るわ」
「本当かい！？…もう大丈夫なの？」
「ええ！貴方のおかげ…」
ちゅっ☆
思わず頬にキス。
「ぱっパー子！？」
1号は照れて照れて顔が真っ赤ッ赤。でも、女性からされてばかり居ては男のメンツ丸つぶれ！今度は…
ちゅっ★
「どうだい！」
1号からパー子にキス。
パー子は嬉しくて、照れて、でもやっぱり凄く嬉しくて顔がやんわり。あの日のことなんてすっかり忘れてしまっていた。
「あ、そうだ、これあげる！」
「ええ！？本当にいいのかい！？」
「ええ！見に来てあげてね」
「うんもちろん行くよ！」
「じゃあ。またね！」
「うん、また」
パー子が1号に渡した物は、今度スミレが演じるミュージカルのチケットとポスターだった。
「いつか、いつか星野スミレの姿で貴方に「好き」って言うから…待っててね…」
パー子は家に帰ると早速マネージャーに電話を入れた。嬉しそうなマネージャーの声と共に膨大なスケジュールを
告げられると、彼女はシャワーを浴びて、ぐっすりと眠るのだった。
大好きな彼の夢を見たくて…。
今日の出来事が決して夢ではないように…。
そして、日曜日。パー子からもらったミュージカルのチケットを片手にミツ夫は、満足そうに会場から出てきた。
「パー子のやつ、3回公演分もチケットくれるなんて！しかも1番前！これから3回もスミレちゃんに会える！やっほー！」
ステージから一番前の席のチケットをミツ夫に渡した当の本人は、今日も自分だけを見に来てくれている彼の姿を見つけると満足そうに微笑む。そして自然に縁起にも気持ちが入り、その日はゆっくり幸せに眠れるのだった。
これからは、この作戦で行こう、そう心に決めるスミレだった。
※あとがき…※
ぐはっ…。とうとう書いてしまいました…ワケの分からない駄文を…。すみません…。
ラブコメ目指すつもりだったんですが―…。なんなんでしょう…これわ…。
えっと、こんなんでも、お一人でも多くの方に読んで頂けたら幸いです〜。
でわ。…しゅた！（←書きにゲ）
そして、ポスターのイラスト…書いてみたり…。でわ！！
