１．精神能力の目覚め
バード星暦２７３年。
養成学校を卒業し、バードマン養成学校で精神能力訓練の教官として働くこととなった私に、先輩のレステア・ドマーニ教官からの通信が入った。
『今から私の執務室に制服で来てくれ。合わせたい人がいる』
『分かりました』
私は白いマスクと水色のマントに白いチュニックを身に着け、養成学校の教官室からテレポートした。
私が部屋に入ると、紺のマスク、黒いマントのラーゲナ男性が出迎えた。レステア・ドマーニ教官だ。
「ケネス教官、よく来てくれた。そこの椅子に座ってくれ」
ドマーニ教官の左側には橙色のマスクに茶色いマントの大柄な壮年男性が座っていた。マスクの耳当てが銀色なので本部役員なのだろう。ローゲナ系の褐色肌に藍色の髪をしている。
「養成学校教官のサライラ・ケネスです」
私が自己紹介すると、男性は左胸に手を当てて挨拶した。
「ソーン・モイヤだ。５星区の惑星国家サナス基地長をしていたが、このたびバードマン本部監査室に異動した」
右側に座るもう一人は、紫のマスクに緑のマント姿だ。若い男性だが、肩まで伸びた赤毛に白衣を羽織っているので中性的に見える。
「私はマトー・ペンデレといいます。養成学校三年に在籍中ですが、今年から医療部で内科研修医をしています」
マトーは目を伏せると頭を下げた。
「これでみんな揃ったな。ここに呼んだのはマトーに君たちを紹介するためだ」
ドマーニは腰掛けると、私に隣の椅子を勧めた。
「マトー・ペンデレはパーマン計画の第２チーム１号として活動していたが、医師志望だったのでパーマンを引退し、医師資格取得後、養成学校３年度に編入した。彼も素晴らしい精神能力者だ」
「ご期待に添えるよう、努力いたします」
マトーはドマーニ教官を見ながら神妙そうに述べた。ドマーニは私の方を向いてさらに話し続ける。
「サライラ・ケネス教官はパーマン計画の第１号チームで、優秀な精神能力者として現場で活躍していた。お父上のオルウェン・ケネスは銀河連邦議員で、我々の表向きの顔である銀河連邦職員養成学校の活動にも協力してくれている」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
とっさに礼を述べたものの、私は養成学校の卒業式に来賓で来た父のことを思い出し、心が曇った。
「ところで、諸君はどういったきっかけでレステアにスカウトされたのだ」
モイヤ監査官に尋ねられ、私は自分がパーマンになったきっかけの出来事を思い返した。
○
バード本星で生まれた私は、小さい頃からテレポーテーション能力が使え、精神能力者として登録されていたが、ルーガ内戦による精神能力者迫害や両親の方針もあり、制御措置を受けて暮らしていた。
１１歳の時だ。私は夢を見た。母、マイラが炎の中で悲鳴を上げているのだ。
（誰か、助けに来て！）
銀河連邦付属学校職員である母は、バード星の小学生代表を伴い、惑星ルーガへの交流訪問中だった。目覚めた私は、寝室の父に必死に訴えたが、父は「夢を見ただけだろ」と取り合ってくれなかった。
「もういい！ 私が行く」
そう叫んだ時、私の目の前の空間がゆがんだ。次の瞬間、私は宇宙船内とおぼしき場所にいた。テレポーテーションが発動したのだ。母はどこにいるのか、私はいても立ってもいられず声を上げた。
「お母さん！」
辺りは煙に包まれ、遠くで爆発音がする。必死に目をこらすと、煙の向こうから黒いマスクに赤いマントを身につけた男が歩いてくる。男は立ち止まると私を見つめ、呼びかけた。
「ここは危険だ。私と行こう」
それが、バードマンだったレステア・ドマーニとの出会いだった。
○
ドマーニに後で聞いた話では、惑星ルーガからバード星へと向かう定期船内で、突然火災が起こったのだという。かろうじて助かった客の中に、バード星のムジュロ小学校５年生だったカイン・ダグレイルがいた。カインはテレキネシスで強制的に防火シャッターのボタンを押し、炎から乗客を守った。しかし、炎の向こう側にいた母たちを救うことはできなかった。ドマーニたちバードマンが駆けつけたものの、生き残った乗客をパトロール艇に逃すことしかできなかった。
○
私はカインと一緒に、バード星へと戻るパトロール艇に乗った。カインは落ち込んでいる私を察してか、小声で呼びかける。
「僕はカイン・ダグレイル。君は？」
「サライラ・ケネス」
私の名前を聞いたカインは驚いたように固まった。私の脳裏に心の声が聞こえてくる。
（もしかして、君が探していたお母さんって）
私はカインが私の声を聞いていたことに驚き、精神能力者だと確信した。しかしこの時には、後にパーマンとしてコンビを組むことになるとは予知できなかった。
２．パーマンになった日
バード星に戻った私は、駆けつけた父に対面した。母が消息不明であることを聞かされた父は、目を伏せたまま私に言った。
「サラ、信じてあげられなくてすまん」
私は何も答えず、抱きしめようとした父の手を振り払った。
それから１年後。１２歳になった私は、不思議な夢を見た。私がドマーニのようなバードマンになり、あの時の宇宙船で母を探しているのだ。
炎の中で母の声をテレパシーで聞こうとしていると、前方に防火シャッターが立ちはだかる。私がテレポートして向こうに飛び込もうとしたとき、背後から声がかかった。
「待って、僕がバリヤーを張るから」
振り向くと、私と同じ年頃の男性バードマンが立っていた。彼が左手で弧を描くと、泡のような空間が生まれ、私を包み込む。
「これでしばらくは大丈夫だよ」
そこで目を覚ました私は、再び夢の続きを見ようとしたが、見ることはできなかった。
我が家にラーゲナの若い男性が訪問してきたのは、その夢を見た数日後だった。
「私は銀河連邦職員養成学校クラム校教官、レステア・ドマーニです。お嬢さんには強い精神能力がある。その能力を生かすためにもぜひとも銀河連邦付属学校へ進学し、銀河連邦職員養成学校への推薦を受けて欲しいのです」
私は同席していた父の顔を見る。父は無言でかぶりを振ると言った。
「私は娘を精神能力者として育てたくはありません。亡くなった妻もそれを望んでいました」
その時、私の心にドマーニの声が響いてきた。
（私は君の味方だ。君の本心を聞かせてくれないか）
私の脳裏に、先日の夢が浮かぶ。そしてドマーニの声が、私があの日出会ったバードマンの声と同じことに気づいた。
（私、バードマンになる夢を見ました。もしその夢が本当になるのなら）
（もちろん。私は君を迎えに来たんだ）
私はドマーニを見つめて答えた。
「私は銀河連邦付属学校に進んで、母のようにみんなを助ける仕事につきたいと思っています」
「母のような、か」
父はそれ以上答えず、口をつぐんだ。
翌年、私は銀河連邦付属学校ムジュロ校に進学する。同級生にはカイン・ダグレイルがいた。２年前よりも大人びたその姿は、あの日見た夢の男性バードマンそっくりだった。
入学式の後、私はテレパシーで校舎の屋上に呼び出された。そこにはバードマン姿のレステア・ドマーニとカインが待っていた。
「入学おめでとう。あの時の約束を果たそうか」
ドマーニは私に、白い小さなカプセルを差し出した。ドマーニがカプセルを指でもみしだくと、カプセルが白いヘルメット状のマスクに変化する。
「これは」
私の問いに、ドマーニはマスクに入った水色のマントとバッジを取り出しながら言った。
「これはパーマンセット。君たちはこれを身につけ、パーマンとなってもらう」
既に紺色のマスクを受け取っているカインが言った。
「つまり、見習いバードマンということですか」
「さすがカイン、察しが早くて助かる。君たちはチームを組み、このセットの力と精神能力を生かして、我々の手伝いをして欲しいのだ」
私はあの日の夢が予知夢だったのだと理解した。そしてマスクとマントを身につけると答えた。
「分かりました。カインと一緒にがんばります」
