エピローグ

　さて、ケネスにテレポートさせられた二人は、パーマンたちの出迎えを受けた。但し、アルマイトが気にくわなかったのは、その出迎え方だった。彼等は、こう言ったのだ。
「お帰りなさい“マント撃ち”のアルマイトさん！」
　アルマイトの目は、３人の脇でニヤニヤしているイムールに止まった。
「イムール、貴様だな、下手人は？！」
　アルマイトは声を上げると、イムールに飛びかかった。
「ち、違う。僕はそんな台詞を教えた覚えはない！」
「問答無用！」
　アルマイトは間一髪で飛び退いたイムールを追いかけ始めた。

彼等は、地球に帰る前に、まずバード星に立ち寄る事になった。そこで新しい宇宙船に乗り換え、司令官の葬儀に出席してから地球に帰る事になったのだ。
　しかし、ルウはパール星に残った。彼はこう言った。
「“大いなる母”が無くなったので、しばらくはこの星で様々な混乱が起こる事でしょう。しかし、事情が分かれば、人々も新しいパール星の建設に協力し、新しい生活に慣れて行くと思います。私も、この星の一員としてそれに加わりたいと思います」
「でも、お体の方は……」
　ケネスが心配そうに言った。するとルウは、
「なぁに、これからの事を考えると、体がムズムズして来る位ですよ」
と言った。
「あの、ピラミッド・ペンダントは……」
　次いで、１号が尋ねた。ルウはこう答えた。
「あのパワーは、全部君の体の中にある。だから、あれはもう必要無い。それに、私はもうあれは作らないつもりだ。あんな物が無くても、人々は自然に超能力に目覚めて行く。この事件で、私はそういう物は自然の摂理に任せるべきだという事を悟ったのだ」
　（何だか、もったいない様な気がするな……。でも、僕は本当のエスパーになったんだ。こっちの方は、ばらしたら変身銃で撃たれるなんて事は無いだろうからな……）
　１号、心の中で呟いた。
　しかし、その時アルマイトがケネスを隅の方に引っ張って行った。
「ケネスさん。一つ頼みがあるんだけど……」
　そこから、急にアルマイトの声が低くなったので、１号にはそれから後の話は聞き取れなかった。

　五人が地球に着いたのは、それから地球時間で約二日程経った頃だった。無論アルマイトは、真夜中に着くように宇宙船を進ませたのである。
「それじゃ、私は、これをバード星に返しに行くから」
　アルマイトは、その言葉を残して、宇宙船を発進させた。それを見送ってから五人は家へ戻り、それぞれ眠りについたのだった。

　しかし……。
　明け方近く、ミツ夫の部屋に二つの人影が現れた。男と女の様だった。
　男が女の方に向かって「頼むよ」とでも言うような仕草をした。女は諾くと、ミツ夫のベッドの側に身を屈めて、良く眠っているのを確かめると、身を起こし、しばらくじっと立っていた。やがて、女は終了を振り向き、男に合図をした。次の瞬間、二人の姿は部屋から消えていた。

　次の日、ミツ夫はいつもより早く、目を覚ましてしまった。時計は、６時を指している。彼がまず、最初に思った事は、
　（今日、学校で、スプーン曲げてもやって、みんなをビックリさせてやろう）という事だった。そして、それに続けて、こう思った。
　（まずは小手調べに、ここからカーテンを開けてみよう）
　今のミツ夫は、自身満々だった。何しろ、帰りの宇宙船の中で、彼はある程度、超能力を使いこなせるようになっていたからだった。ミツ夫は、カーテンを見つめて強く念じた。
　しかし、カーテンはユラリともしなかった。ミツ夫は、少なからず動揺した。だが、
　（きっと、まだ眠気が取れないなからだ）
　こう考えると、布団の中に潜り込んだ。そうしながら、彼は今度の事件の事を思い返していた。留守番役のコピーロボットの話によると、特に大きな事件も無かったようだ。家を空けていたのは、たった５日間なのに、ミツ夫にとっては、１０日間位家を空けていたように思えた。
　ふと時計を見ると、もう６時半になっていた。ミツ夫は今度はベッドから滑り下りて、精神統一をしてから、強く念じた。しかし、結果は前と同じだった。
　（そんな馬鹿な……。僕はエスパーなんだ。宇宙船の中では、こんなの朝飯前だったのに……）
　ミツ夫は、１歩、２歩、カーテンの側に歩み寄った。するとその目が、ある物を捉えた。学習机の上に、１枚の折りたたんだ紙が置いてあったのだ。ミツ夫は、方向転換すると、その紙を取り上げた。
　（おかしいな……。昨晩は、こんな物は無かったのに……。とすると、夜中に……。でも、一体誰が……？）
　ともかくミツ夫は、その紙片を開いた。それは、明らかに手紙で、彼が今までに見覚えの無い筆跡で書かれてあった。ミツ夫は、椅子に座ると、手紙を読み始めた。


　　　　　１号へ

　　　　この手紙を読んでいる頃には、もう超能力を使えなくなっているはずだ。
　　　というのは、ケネスさんが、君の眠っている間に暗示をかけて、超能力を封
　　　じ込めたからだ。つまり、これで元通りという訳だ。

　　　　我々がこうした理由は色々あるが、とどのつまり、１号には、今、自分が
　　　持っている未知数のパワーを使いこなす事は出来ないだろうし、危険である
　　　という事だ。それに、君の事だから、おそらく、超能力を他人に見せびらか
　　　したがるだろう。するなと言っても、それを守り抜く事は、１号にとって困
　　　難なはずだ。だから、いっそ今はそのパワーを封じ込め、１号がもっと大き
　　　くなってから暗示を解いてゆっくり開発した方が良かろうという事になった
　　　のだ。
　　　　我々は、バード星に戻らなくてはならないのでこの手紙を残しておいた。
　　　読み終ったら、すぐに処分してくれ。水に入れれば、溶けるはずだ。宜しく
　　　頼む。

　　　　　　　　　　アルマイト（バードマン）


　ミツ夫は、手紙を元通りにたたみながら、溜め息を１つついた。確かに、アルマイトの言葉にも、一理はあった。それに、永久にパワーが無くなった訳ではないのだ。いつかもう１度、超能力を使える時がきっと来る。それまで待てばいいのだ。彼はそう思うと、椅子から立ち上がって、カーテンを手で開けた。
　次いでミツ夫は、足音を忍ばせて、階下へ行った。まっすぐ洗面所へ行くと、栓をして蛇口をひねった。ある程度水が溜ると、ミツ夫は水を止め、紙を水に入れた。まるで、粉が溶けるみたいに紙は見えなくなってしまった。形が消えた所で、ミツ夫は栓を抜いた。
排水口に吸い込まれて行く水に、一瞥をくれると、彼はトイレへ入った。

　その頃、宇宙船は巡航速度で、バード星へ向かって飛んでいた。アルマイトは操縦席に座り、ケネスがその脇に立っていた。
「ねぇ、カラコルムさん。あれで、良かったのかしら？」
　ケネスが、不意に言った。アルマイトは、ケネスの方に顔を向けながら言った。
「大丈夫だよ。あいつ、根は単純だから」
「つまり、貴方と同じって事ね」
「それは、どういう意味だよ」
　アルマイトは、口をとがらせた。ケネスが、ハッとした様に言った。
「いいえ、そんな事じゃないの。私達だって、科学の力で元々の力を増強しているのよ。一歩間違えば、パール星の二の舞になるんじゃいなかしら？　それが私、恐いの」
「そうは、ならないと思うな」
　アルマイトが、重々しく言った。
「まだ我々は“神”を信じているからね。しかし、パール星人はそういう超自然的な者が信じられ無くなった。でも、やはり何かにすがりたくて、結局“神”を作り上げてしまった。そこから、彼等の破滅が始まったんじゃないかと、私は思うんだ」
「貴方の言う通りかも、知れないわ」
　ケネスの横顔が、アルマイトの方に傾いた。一方、アルマイトの方は、自分の言葉に陶酔していた。彼がこんなに決められる時は、滅多に無い。しかも、ケネスの前でときては、優越感もただならない。その勢いで、彼は大胆にもケネスにこんな誘いをかけた。
「ところで、ケネスさん。バード星に帰ったら、休暇、取るんだろ？」
「ええ」
　アルマイトは、心の中でニヤケながら言った。
「僕もそうなんだ。だから、君と一緒にドライブでも出来たらいいなぁ……なんて……」
「それ、デートの誘いのつもり？」
　ケネスは、横目でチラッとアルマイトを見ると、こう呟いた。
「そうねぇ……。別に用事も無いだろうし、ドライブは気持ちいいだろうな……」
「そうだよ。それに僕、ちゃんと操縦の腕もあるんだ」
　アルマイトは、はやる心を抑えながら、ケネスの一言を待っていた。しかし、ケネスはすげなく言った。
「でもやっぱり、お・こ・と・わ・り！」
　（ヘコ〜ッ！）
　アルマイトは、心の中でこんな声を上げると、ズッコケた。しかし、宇宙船はそんな２人のラブコメにはおかまいなしに、宇宙を飛び続けていた。



　　　　　　　　　　　　　パーマン外伝 ｖｏｌ，１
　　　　　　　　　　　　　　　　「ピラミッド・ペンダントの秘密」　終り

あとがき


　ある時、この物語の終り方をある友人に話した所、かなりそれに不服そうでした。しかし、これには私なりの理由があります。
　彼女には、この物語がパーマンの物語である事をその時点では言っていませんでした。「この物語を読む前に」を読んだ方は（ははん）と見当が付いた方もいらっしゃると思います。念の為、言わせて貰いますと、私としては、この物語を書いた動機からしても、ミツ夫君をエスパーにはしたくなかったのです。この物語は「外伝」という語から十分分かるように、あくまでアニメの『パーマン』の延長線上の物語としたかったのです。
　これで、是非ともこうしなければならなかった、という事を少しはお分かり頂けたかと思います。

　ただ、『パーマン』を良く知っていらっしゃる方の中には「バードマンの印象が、やたら違っているじゃないか」と言う方もいらっしゃるかも知れませんが、この点に付いては、私も認めます。ただ、アニメのバードマンは、たいてい指導者としての顔しか見せておりません。私は、今回バードマンのもう一つの顔、つまり、“正義の味方”としての顔を中心にして描きました。その為、かなり“私としてのバードマン（アルマイト）の理想像”が入り込んでしまい、あの様な姿になってしまいました。“的撃ち”の設定に付いては、どうしてもこれを入れなければ、４２星区艇の先発隊参加を始め、ストーリーにかなり支障が出てしまうので、あえてこうしました。それに、こうでもしなければ、何故あんな欠点だらけけの性格（と、あえて言わせて貰いますが）の人がバードマンなんかになれたのか、不思議に思う人が居ると思うという事もあります。

　何だか、弁解ばかりの文章になってしまいましたが、最後に、この物語に協力して下さった人々、及び、この物語を最後まで読んで下さった人々に対して、お礼を申し上げて、この物語を閉じさせて頂きます。



参考文献　「学研まんが ひみつシリーズ ４３　いる？いない？のひみつ」
　　　　　　 「パーマン全百科」






普及版への後書き


　この『ピラミッド・ペンダントの秘密』略して『ピラ・ペン』は、高一の文化祭の文芸誌合わせで作った大長編です。それだけではなくて、Ｐ・Ｐ・Ｓ・Ｓ（＊１）のシリアスかつ、オリジナル世界へと突っ走っている反動もあったのですが……。ケネスのルーツはこっちなんですよ。ちなみに、最初は分載する予定だったのですが、別の友人の、
「一般客が、続き読めないでしょ」
に負けて、授業中にシコシコ清書して、ついに文芸誌の４分の３は、これで埋まってしまいました。しかし、私の悪筆の為、まともに読んだ人は数える程しか居ないという作品です。
　読むと分かりますが、巨大コンピューター『大いなる母』のイメージの素になっているのは、言わずと知れた『地球へ……』と、映画『Ｄｒスランプ』です。何処がどう反映してるかは、皆様の御想像にお任せします。
　とりあえず今回は、こんなラストになっていますが、もし、書き直すとすれば、バードマンの「父性」と、彼女の「母性」を対決させてみたいと思っています。
　ま、私としては、こちらのシリーズでも書き継いで行きたいと思っていますので、長い目でみてやって下さい。

　それでは、御愛読、宜しくお願いします。（次の作品も）