９．　帰って来た二人


　（ここは、コピーの手によります）

　それにしてもビックリした。ミツ夫君が大雪山にいたなんて。しかも、有人さんも一緒だったとは、思いがけない出来事だった。
　でも、心配はそれからだった。僕がミツ夫君に再会した時には、彼は病院のベットの上で眠っていた。僕はそれを見て（疲れているんだな）と思ったが、三号は真面目な顔をして言った。
　「さっき、お医者さんが来て診てくれたんだれど、肺炎になってるんですって。それに、凍傷にもかかってるんですって」
　「有人さんの方は？」
　「さぁ…。でも、私達が助けた時には、意識はハッキリしていたいわ」
　「そう」
　僕はミツ夫君の顔を覗いた。気のせいか、その顔は浅黒く（＊１）見えた。そこへ、有人さんの様子を見に行っていた二号と四号が入って来た。僕等は、早速その様子を尋ねた。
　四号がこう答えた。
　「お医者さんは『全身の凍傷と足首の捻挫だ。でも、手足と鼻の凍傷を除けば、大した物じゃないから大丈夫だ』って言うてた」
　僕等はその言葉に頷いた。もう、窓の外は夕焼けが広がって来ていた。

（ここから、また僕に戻ります）

　僕は、三号の胸で気を失ったので、それからの事は分からない。でもコピーの話によると、僕は丸三日間眠り続けていたそうだ。
　「僕、君が目を覚ますまで、ずっと傍についていようと思ったんだ。お医者さんが、『助かるかどうかは、本人次第だ』なんて言うから、すっかり焦っちゃってさ」
　「僕、そんなに悪かったの？」
　「うん。“コンスイ状態”なんて難しい言葉では言うらしいけど。二日目の夜、急激に悪くなったんだ。でも僕、丸一日寝てなかったもんだから、とうとうダウンしちゃったんだ。そして、眠っている時に不思議な夢を見たんだ」
　「夢？！　夢なら、僕も見たよ」
　僕は、思わず声を上げた。
　「一体、どんな夢を見たの？」
　コピーが尋ねたので、僕は、コピーにその夢を説明した。
　「僕、ずうっと向こうの方まで続く、白い道を歩いていたんだ。そうしたら君が現われて、僕と反対の方へ引っ張ろうとするんだ。でも、どうしても動かなくて、僕が思わずよろけて、道の片側に落ちたんだ。そうしたら君も一緒に落っこちて、青い空のような所をどこまでも落ちて行った所で、次第にその青が薄れて来て、ふと気が付いたら、この病室にいたんだ」
　「ふぅん、僕とそっくりの夢だ」
　この会話は僕が目を覚ましてから、初めて二人きりになった時にしたものだ。この頃には、熱もすっかりひいていた。
　「有人さんは、どんな様子？」
　「すこぶる元気だよ。あ、今日辺り、ベッドから離れられそうだって」
　「それじゃ、僕等の所にも来るかも知れないね」
　僕がそう言った時、
　「お望み通り、やって来ましたよ」
　と言いながら、有人さんが入って来た。
　「もう、すっかり良くなったみたいだね？」
　僕が言うと、有人さんは、
　「お医者さんの腕が良くてね。後は、捻挫が治るのを待つばかりだよ」
　と言って足を見せた。しかし、
　「それよりも」
　有人さんは声を低めた。
　「私は明日、重要参考人として警察に行く事になっているんだ。私としては、宇宙人がこの事件にかかわっている事は、極力秘密にしたい。その為には、君も調子をあわせてくれなくちゃ困る。やってくれるな？」
　「はい」
　僕は半ば服従的に答えた。
　「でも、そうしたら、どんな風に言えばいいの？」
　「あの雪崩では、奴等の死体も、当分出ては来まい。だから最後の戦い（＊２）はカットだ。私が脱走して、あの谷間で気を失っていた所を君が助け、そこに雪崩が襲って来た。こういうことにしよう。奴等の事は……まぁ、“パーマンに恨みを持つ奴”くらい、この地球にはいくらでもいるはずだ。そういう人達のグループが、親友の君をたまたま本人だと勘違いして拉致した。ま、こんな所でいいだろう。詳しい事は、明日また来て話すから」
　「はい」
　有人さんは、それだけ言うと出て行った。
　その次の日、僕は有人さんに話の中身を聞いた。それは無駄ではなかった。数日後、有人さんの予告通り僕は、事情聴取を受けたからだ。
　刑事さんは、僕と有人さんの話とを比べていたようだが、何処にも不審な点はなかったようだ。僕は思わず心の中で、
　（どんな物だい）
　と声を上げた。
　僕が退院したのは、それから一週間後の事だった。

　この事件の前と後では、僕自身も、他の人の僕を見る目も変わったような気がする。
　僕自身としては、自分の体力に自信が持てるようになった事と、同時に他の人も「お前が、あれ程がんばれるとは思わなかったよ」と口々に言ってくれたのがとても嬉しかった。
　でも、それ以上に驚いたのは、カバオの言葉だった。
　「ミツ夫、俺はお前に手を上げる事が出来なくなっちまったよ。何かこう手が鈍っちゃうんだよな。お前を見てると」
　よく、世の中には何となく憎めない奴がいる。僕はカバオにとってそういう人間になってしまったらしい。
　でも、やはり一番嬉しかったのはミッちゃんの言葉だ。
　「ミツ夫さん、もし、パーマン五号を作る事になったら、なるのはきっと、あなただと思うの」

────　ミツ夫の日記から────　

四月九日（水）
　やっとレポートが完成した。レポートというより手記（というんだそうだ）みたいになってしまった。
　一号さん経由で、バード星に持って行って貰おう。

＊１　　気のせいでなく、雪焼けのせい。

＊２　　もし、レーザーガンが出て来たら“地球人でない”という結論が出かねない。