１０．　銀のループタイ


　卒業制作が完成した。
　【現在、そして未来】という題で、八枚の板（＊１）を並べた表に現在の朝日が丘小、裏には百年後の朝日が丘小が描かれている。それが木の枠に取り付けられて、回るようになっているのだった。
　それは職員室の前の廊下に取り付けられ、子供達が通りすがりに回すので、かなりバラバラになっていた。
　「ごたまぜの学校っていうのも、中々いいじゃんか」
　ちょうどそこを通りかかったミツ夫達は、こんな批評をしながら通り過ぎた。これから体育館で、卒業式の予行が始まるのだ。
　卒業証書を渡す練習が終わると、いよいよ次は“呼び掛け”の練習になる。これは五年と六年とが交互にやるもので、クジ引きで順番を決めてある。ミツ夫の言葉が最後のクライマックスになる為、彼はかなり緊張していた。が、その緊張がたたった。まだ前に一人いたのを忘れて僕は、
　「中学校へと、巣立って行きます！」
　とハッキリ言ってしまったのだ。もちろん、場内は大爆笑。
　（あーあ、またドジやっちゃった…）
　ミツ夫は頭を抱えて落ち込んでしまった。が、その時バッジの音がし、それは一度で切れた。
　ミツ夫は、上手く手の中にバッジを隠すようにしながら囁いた。
　「今、予行なんだ。終わってからにしてくれよ」
　「それなら、終わったらすぐ、空き地の方へ来てくれないか？」
　「は、はい」
　バッジの声の主は、意外にもバードマンだった。
　（あの人バード星に帰ってるはずなのに……いつの間に帰って来たんだろう？）
　「おい。何考え込んでいるんだ？　校歌だぞ」
　大山先生が、考え込んでいるミツ夫をつっついた。

　「バードマン、いつ、帰って来たんですか？」
　「今日の朝なんだ。でも色々あったんで遅くなったんだ」
　いつもの空き地で、一号とバードマンの話が続いていた。
　「あの、給食まだなので、手早く話を済ませて貰いたいな……なんて……」
　ためらいがちに言いかけた１号の前に、箱が一つ差し出された。
　「はい。卒業のプレゼント」
　「あ、どうもありがとう。今、中見ちゃってもいいですか？」
　「ああ、いいよ。中に三つ入ってるから、後で他の連中にも渡しといてくれ」
　一号は、箱を開けて中を見た。が、良く分からなかった。一個つまみ上げてみると、彼は、それをひねくり回した。初めはブローチに紐がついているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。その内に彼はこんな物を夏つけていた先生がいたのをやっと思い出した。が、その名前はどうしても思い出せなかった。
　「どう、その“ループタイ”。気に入ったかい？」
　こうバードマンに尋ねられて、やっと一号はその名前を知った。が、うわべはさりげなく、
　「はい。銀メッキでしょ、これ？　高かったでしょう？」と言った。
　「いや、大して高くなかったよ。何しろ、バード星じゃ銀は鉄より豊富にあるからね」
　「あ、これ、バード星製ですか」
　こう言いながらも、一号はしきりに腹具合を気にしていた。そして、どうやらこれで話が終わりそうなのを見て取った一号は、回れ右をした。
　「それじゃ、僕、帰りますから……」
　「あ、ちょっと…」
　バードマンは慌てて一号を呼び止めた。
　「話はこれからなんだ。すぐ終わるから」
　一号は、かなり不満気な顔つきをしながら振り返った。
　「実は今度、研修をしにバード星に一旦帰る事になったんだ。それで今日は、その事について話したかったんだ」
　「どのくらい、向こうにいるんですか？」
　「そうだな。今夜出発して、夏頃までは帰って来れないだろうな。でもその間、代理のバードマンが来るから、迷惑かけるなよ」
　「大丈夫だよ。僕等、もうすぐ中学生だもの」
　一号は、自信たっぷりに言った。しかしバードマンはまだ心配らしく、更に続けた。
　「いいか？　今度のバードマンは、私の上司（＊２）なんだ。私の恥にならぬよう、くれぐれも宜しく頼むよ」
　「はい、はい、分かりました。みんなにもちゃんと伝えておくから。それより、バードマン、向こうでまた停職なんてくらわないでね」
　「お前は、一言余計なんだよ」
　バードマンは、一号の頭をこずく真似をした。
　しかし、その時ふと気が付いたというように一号は、
　「あ、しまった。給食が始まっちゃう。それじゃバードマン、お元気で！」
　と言うと、慌てて飛び立ってしまった。
　バードマンは、それを引き止めこそしなかったが、未練がましく後ろ姿を見送ると、溜め息をついた。

　そして今日は卒業式。ミツ夫は、あのループタイを付けて学校に来た。それをカバオが冷やかした。
　「何だミツ夫、今日はカッコつけてるじゃんか。誰がくれたんだ？」
　「え、これ？　有人さんだよ」
　「チェッ、お前には似合わねぇよ」
　「そんな言い方ないだろ？」
　「いいじゃないの。卒業式まで口喧嘩しなくても」
　このミチ子の一言がきいて、二人の口論はそれまでとなった。
　式場には、たくさんの椅子が並んでいる。
　その前方の空席に卒業生の席はある。ドアの隙間から覗いた時、ミツ夫は思わず気後れがした。ドアに近い方の席には隣り合うように、五年生と父母が座っている。その間にある一筋の道が、いわば“花道”になるからだ。笛を膝の上に置いて喋っている五年生を見ている内に、彼は思わず、
　（あの五年生達と一緒にいたい）
　と思った。
　「こら、ちゃんと並んでろ。入場するぞ」
　こう先生に怒られたのも、ミツ夫にはちっとも苦にはならなかった。それよりも、
　（こんな声聞くのも、もう最後なのか）
　という気持ちの方が、ずっと強かったからだ。
　しかし、その時、音楽が流れ始めた。
　「卒業生、入場」
　という声と共に、拍手が起こり、その中を卒業生達は進んで行く。
　次第に式は進み、ついに卒業証書の授与になった。
　「須羽ミツ夫」
　「はい」
　階段の前に立っていたミツ夫は、返事をしてステージの中央にある段の前に立つと、校長先生から卒業証書を受け取った。そして途中で貰った筒にしまうと、自分の席に戻った。それから後は、少し落ち着いて辺りを眺める事が出来るようになった。まだ、泣き声は聞こえなかった。
　だが、いよいよ“呼び掛け”の番になると流石に泣きじゃくる声があちこちから聞こえ始めた。その中で、ミツ夫は今度こそは間違うまいと張り切っていた。そして、ついに彼の出番が来た。
　「私達、卒業生百十三名は」
　「今日の、この日を永久に心に残して」
　ミツ夫は、息を吸い込むと、言った。
　「中学校へと、巣立って行きます」
　「今まで、私達を見守ってくれた…」
　後が上手く続いたので、彼は安心して立っていられた。

　その頃、バード星の本部では、代理のエクタル（＊３）との引継ぎを終えたアルマイトが、一人ロビーでたたずんでいた。そこへエクタルが入って来た。彼は考え込んでいるアルマイトの肩に手を掛けると、尋ねた。
　「アルジェ、何を考え込んでるんだい？」
　「いや、別に大した事じゃないんだ」
　アルマイトは、素っ気なく言ったが、エクタルはイタズラっぽく微笑むと言った。
　「そう言う所をみると何かあるな？　さぁ、言ってごらん」
　アルマイトは、苦笑しながら言った。
　「まっいたな。ちょっとパーマン達の事を考えていただけなんだ」
　「そうか、邪魔して悪かったな。でも、そろそろ、荷造りした方がいいぞ」
　「ああ、分かった」
　エクタルが出て行った後、アルマイトは、心の中でこう呟いた。
　（みんな、どんどん俺から離れて行く…。別れの時が、すぐ傍まで来ている。それは分かっているのに、俺だけ未練惜しんでいる…。これじゃいけないと、分かっているのに…）
　アルマイトの心中は、四人の成長を喜ぶ気持ちと、その為に生じた淋しさとが入り乱れていた。


＊１　　右図参照（絵の部分は省略）

＊２　　エクタルは一号であるが、アルマイトは七号である。（ｖｏｌ，４へ）

＊３　　この時、アルマイトもエクタルも制服を着けているがそうなると“バードマン”と呼ぶのは、話を混乱させてしまうのでこう呼んだ。（ちなみに、これはｖｏｌ，４以降もそうするつもりです）



パーマン・パラレルワールド・ストーリー　ｖｏｌ，３
『ガザン星人の挑戦』

終わり

ｖｏｌ，４『続・バード星への道』につづく



あとがき

　「何だ『ガザン星人の挑戦』なんて、たいそうな題くっつけた割には、別に大した事なかったじゃないか」と、お思いの方、どうも済みません。この拉致についての裏話はｖｏｌ，４の方で明らかにしたいと思います。
　私自身は、このシリーズの中でもｖｏｌ，１・２を“タイム編”ｖｏｌ，４・５・６を“宇宙編”ｖｏｌ，７・８を“青春編”（注）と呼んでいますが、このｖｏｌ，３については、“タイム編”でのミツ夫の成長の確かめと“宇宙編”のテーマともいえるガザン星人との戦いの序章という事で、いわば“タイム編”と“宇宙編”の「つなぎ」の作品だと思います。

　この作品でも、沢山の方々に、大なり小なり、御迷惑をおかけしました。この場を借りて、深くお詫び申し上げたいと思います。

　また、何分にも、作者が未熟なもので、色々と不自然な所や間違っている所があるかと思いますが、その辺はどうかお許し下さい。（ただし、間違いは出来るだけ手直ししたいと思いますので、もしありましたら、ご指摘下さい）

　最後にお世話になった皆さんと、書物を列記して、この後書きを閉じたいと思います。

　　　　　　　　友人、先生、百科事典、「山と渓谷三五○」　その他

（注）ここでの予定は結局実現していない。


　ウェブ公開にあたり、句読点、不自然な文章等に手を入れています。(2015.4.19)