１１．　全体会議


　ご多分にもれず、開会式は退屈なものだった。ただ、この独特な雰囲気の中に身をおいた四人は少し興奮気味で、１号や２号は何度もエクタルの注意を受けた事を記しておこう。
　開会式が済むと四人は宿舎に戻った。これから七時までは自由時間だ。
　「ねぇ、アルマイトさん、何処にいるのかな？」
　ベットの上に寝っ転がりながら、１号がポツリと言った。
　「そうか。そういやエクタルはん、何も言わんかったもんな」
　「このパンフに、治療棟が書いてあるわ。きっとここにいるんじゃないかしら？」
　三人は、３号の手の中のパンフを見つめた。
　「じゃ、行ってみよう！」
　１号が言った。三人は間髪を入れずに頷いた。

　「何処へ行くんだ？」
　治療棟の入り口にさしかかった時、一人のバードマンが声を掛けてきた。
　「あの、治療棟を見学したいんですけど……」
　「見学日は明日からだ。今日は歓迎会が控えているから、ゆっくり休むことになっているはずだぞ」
　「あの、治療棟に４２星区の７号さん、いませんか？」
　１号が尋ねた。
　「さぁな。俺は治療棟の人間じゃないから知らないな。しかし、４２星区とは……。もしかして君達、噂の地球代表じゃないか？」
　「はい、そうですが……」
　「こりゃ運がいい。折角のチャンスを逃してなるものか。少し聞きたい事があるんだが……」
　いつの間にか四人は彼のペースにはめられて、お喋りを始めていた。

　「アーア。結局、骨折り損のくたびれ儲けや」
　「仕方ないよ。まさかあんなに集まって来るなんて思わなかったもん」
　１号が弱々しく弁護した。
　「一風呂浴びたら、すぐ歓迎会よ。急がなきゃ」
　「アルマイトさん探しは明日に延期やな」
　四人は慌てて宿舎に戻って行った。

　各部屋に付いている風呂に入ってから、四人は時間を見計らって地下のホールに行った。ここが食堂であり、歓迎会の会場となるのだ。
　少し遅れ気味にやって来た四人は、エクタルの姿を探した。ほどなく彼は見つかった。一つのテーブルの傍に立っていたのだ。そこには「４２」というカードが立ててあった。
　「ここが君達の為のテーブルだ。ここについててもいいし、他のテーブルへいってもかまわない。ビュッフェ形式だから。ここには見ての通り、日本の食事を用意しておいた。無論、２号の為にバナナもたっぷりな」
　ところが、２号はもうちゃっかりバナナを食べ始めていた。エクタルは、それをチラッと見やると話を続けた。
　「歓迎会はもう少したってからだ。それまでにある程度食事を済ませておけ。おそらく忙しくなるだろうから。それから」
　エクタルは、ポケットから「４２−○」と書かれたネームプレートを取り出した。
　「これをつけておきたまえ。間違わずに自分の番号（○）を取るんだぞ」
　「はい」
　プレートをつけると、四人は早速食事に取りかかった。色々なテーブルの食物の中には、地球の料理に似た物や全くかけ離れた物まで様々な物があった。その間にも「４２」のネームプレートを付けた彼らの姿は一際目立つらしく、あちこちで呼び止められ、お喋りの方に忙しい有様だった。
　そのうちに、正面のステージ部分にスポットライトがともった。そこに一人の女性が進み出た。ワッケである。どうやら司会をするらしい。
　「はるばる遠方からの旅行、さぞお疲れになったことでしょうが、この歓迎会で各星区の代表とも打ち解け、明日からの会議を友好的な雰囲気で出来るようにとの配慮で、このような会を開きました。皆さん一旦、席にお着き下さい」
　皆が席に着くと、ワッケは言った。
　「これから各星区ごとに、自己紹介をして貰います。マイクはテーブルの上にあります。では１星区からどうぞ」
　「ねぇ、自己紹介って、一人ずつやるの？」
　１号が不安気にエクタルに尋ねた。
　「いや、そうじゃないよ。でも、どのみち君は代表で喋る事になるよ」
　「えっ、そんな……」
　「これくらいでビビッてたんじゃ、明後日の朗読はつとまらんぞ」
　「朗読？！」
　１号は、今度は真っ青になった。
　「ああ。君の拉致（＊１）に関するレポートの一部をな。なぁに、そんなに緊張するもんじゃない。リラックスしてな」
　１号は頷いたが、その心臓は尚も大きく波打っていた。
　「４２星区、お願いします」
　ワッケの声で１号は我に返った。
　エクタルが差し出したマイクを掴むと、１号は立ち上がった。
　「よ、４２星区の１号です。全体会議には、初めての参加です。何分、不慣れなもので、色々皆さんに迷惑をかけると思いますが、どうぞよろしくお願いします」
　一礼すると、１号は席に着いた。拍手の波が耳の奥によせてくるのを感じながら、彼はジュースを飲み干した。
　「上出来だよ、１号」
　エクタルが、彼の耳にそっと囁いた。

　その翌日。四人は、会議場の自分の席に座っていた。ステージでは、各星区の一年間の報告がされている。この後、４２星区の報告が行なわれるはずだった。こちらの朗読はエクタルの役目である。
　「続いて、第４２星区における、テストパーマン選定の結果報告をしていただきます。報告者、バードマン１号」
　拍手に送られて、演壇に立ったエクタルは、一礼すると話し始めた。
　「本来なら私ではなく、実際にパーマン達の選定・指導にあたった７号が発表するべきなのですが、彼が止むを得ない事情で出席できなくなりましたので、私が代読することにいたします」
　エクタルは、数枚の紙を広げて読み出した。
　「『地球のパーマン選定において、我々は三つの条件を考慮した。
　一つ、担当地域が、あまり広範囲でない事
これはパーマン達に、あまり負担を掛けない為である。
　二つ、担当地区の治安が整っている事
これは、パーマン達の安全をある程度、守らなければならないと思ったからである。
　三つ、できるだけ、個性的な人物を集める事
これは、理想のパーマン像を持った人物ではなく、パーマン活動の中で、できるだけ個性を殺さずに理想のパーマン達を育て上げたいと思ったからである』」
　「ふぅん。言っとる事は、一丁前やな」
　４号が呟いた。
　「『日本列島は、その最初の二つを叶えてくれる場所だった。“列島”の名の通り、一つの国家が島だけで成り立っており、パトロールの範囲等が区切りやすく、また、治安は世界でも屈指の良さを誇っている。その代わり自然災害が多く、パーマンパワーの使い道には事欠かない。
　残るは三つ目の条件だけだ。こればかりは実際に行なってみなければ選べない。私は日本へ向かった。
　私がパーマン達を選んだ時の状況等は、第九十七回全体会議で発表したレポートに著したので省くが、四人は、それぞれ優れた素質を持っていた。
　１号は、頭脳や体力は特に優れてはいないが、パーマンとして不可欠な“強い正義感”と“優しさ”を持っている。そして、リーダーとしての“統率力”や“行動力”にも優れている。２号は、探索に抜群の能力を発揮する。それに一星の最高種族以外からパーマンを選んだのは、前例なきものと思う。３号は、日本で“柔道”と呼ばれる、一種の武術を心得ており、パワーを効果的に使うのに役立っている。４号は、その物事に動じぬ、冷静な頭脳と沈着な行動をもって、四人のまとめ役となり、時には大きな危機を救ってきた』」
　「理由は、なんとでもつけられる……か」
　１号が呟いた。
　「『無論、パーマンの存在が人々に認められるまでには、それなりの紆余曲折があった。最初に解決した、少女誘拐事件から地道に積み重ねてきた実績が実って、しばらくするとパーマンの存在は人々にとってプラスなるものだという事が人々認められるようになってきたのだ。だが、それは別の事象を生んだ。パーマンと一般人を結ぶ絆が求められるようになったのだ。そして、その絆の役割をいつの間にか、１号が〔パーマンの親友、及び連絡係〕という名目で果たすようになっていった。これは、彼経由でパーマン宛にやってくる様々な企みを見抜きやすくなった反面、悪人のターゲットにもなりやすいという、相反する結果を生んだ。また、１号の正体を暴かれる危険も増大した。そして、そのマイナスの結果の最たるものが“須羽ミツ夫拉致事件”だったのである。だが、その解決は、１号＝須羽ミツ夫という図式を完全に否定した事になり、かえって好結果を生んだ。
　パーマン達が地球の為に尽くした役割は大きい。種々の細かい犯罪は言うに及ばず、墜落（＊２）しかけた飛行機を運んだり、大きな悪事に加担させられようとしていた（＊３）正直な人を救ったり、火山の噴火（＊４）で流れ出しかけた溶岩を防いだり、数え上げればきりがない。そして、何よりもパーマンというものに絶対の信頼と安心感を作り上げてくれたことに対して、我々は感謝の意を述べねばならないのだろう。なぜならば、我々が第二、第三のパーマングループを作り上げる下地を整えてくれたのだから。ここに我々は、地球におけるパーマン選定が成功したことを報告するものである』」
　エクタルは、紙を閉じると、一礼した。拍手が沸き起こった。
　その後は、今日の一連の報告についての質問になった。アルマイトのレポートについても質問は出たが、返答に困るものは無かった。
　「アルマイトさん、レポート中々上手いね」
　「エクタルさんに手助けして貰ったんじゃないの？」
　「あり得るなぁ」
　パーマン達が、思わずこんな会話をした程だった。

　会議が終わってから、今日こそアルマイトの所に行こうとしたパーマン達だが、そこでエクタルに呼び止められた。
　「１号、ちょっと待ってくれ。明日の練習をしよう」
　「練習？　夕食の後じゃ駄目なの？　僕ら、アルマイトさんの所に行きたいんだ。治療棟にいるんでしょ？」
　「ああ。でも、入るには医務長の許可が必要なんだ」
　「何でそんな面倒な事するの？　リーダーをお見舞いに行くんなら、何も問題ないじゃない」
　１号が少しムキになって言った。
　「“リーダー”か。お前達、いつの間にそんな言葉覚えたんだ？」
　エクタルはからかった。
　「じゃ、行ってこい。医務長には私から言っておこう。二階の右端の部屋に居るはずだ」
　「ありがとう！」
　四人は、治療棟に向かって走り出した。
　「こらこら、廊下を走るんじゃない！」
　その背中にエクタルが叫んだ。

　アルマイトの部屋は、すぐに見つかった。ドアのプレートに“４２星区・７号”と電光表示がしてあったからだ。ドアは、四人が前に立つと、すぐに開いた。
　「……あれ？」
　そこは、もぬけのからだった。
　「チェッ、人が折角来たのに……」
　１号が愚痴った。
　「ちょっと待って……。ここにあるのは、スケジュール表みたい」
　３号が、ベットの脇のテーブルにあるコーティング紙を取り上げた。
　「……今、四時半でしょ。それじゃ、リハビリの時間だわ」
　「リハビリ？」
　「歩く練習をしてるのよ。この下に、リハビリ室があるみたいよ」
　「それじゃ、そこに行けば会えるんだ」
　四人は頷くと、階下を目指した。

　３号の言った通り、階下の広い部屋がリハビリ室になっていた。
　四人は中に入ると、目でアルマイトを探した。ほどなく、四人は手摺りに掴まりながら、ぎこちなく歩いているアルマイトの姿を見付けた。四人は間髪を入れず呼び掛けた。
　「バードマン！」
　（こりゃ、直りそうにないな）
　１号は、心の中で呟いた。その時、アルマイトが顔を上げた。
　「お前ら、何でここに？！」
　「やだーっ！　バードマン、なんて格好なの？！　キャハハハハ……」
　突然、３号が笑い崩れた。その格好とやらを見つめた他の三人も、すぐにそれに加わった。無理もない。何せ、顔はいつものマスクで覆われているのに、下はパジャマのような服だったからだ。
　「だから俺は、エタルに『引き止めてくれ』と頼んだんだぞ。一体あいつは、何をしているんだ？」
　溜め息混じりにアルマイトは言った。
　「僕らがバードマンの事“リーダー”って言ったら、部屋教えてくれた」
　「あんにゃろ！」
　１号の言葉に、彼は、およそリーダーらしくない台詞を吐いた。
　「まぁまぁ。押さえて、押さえて」
　４号がなだめたので、アルマイトの怒りは、ようやくおさまった。
　「それにしても、まだ治らないなんて、よっぽど酷い怪我だったんだね」
　１号は、慌てて話題を変えた。
　「当たり前だ。何しろ、大腿骨がボロボロになっちまったんだから。しゃぁないから、人工骨入れて、切れた神経や血管や腱をつなげるために、大きな手術をしたんだ。おそらく地球の医学だったら、この足は使えなくなっていただろうな」
　「へぇ〜」
　四人は、感心したような声を上げた。
　「それで、怪我の具合はどうなの？」
　１号に尋ねられて、アルマイトはズボンの脇のチャックを少し下げると足を見せた。ビームが貫通した部分に絆創膏が当ててあったが、その周りは手術をしたとは思えない程きれいだった。
　「まだ穴が完全にふさがってないんだ。これが完全にふさがるまで、後四五日かかりそうだ」
　その時だ。不意に五人の背中で声が聞こえた。
　「あんた達かい？　ここででっかい笑い声上げたのは。ここは治療棟なんだよ。騒がしい人は出てって貰うよ！」
　２号が「ヤバいんじゃないか」というような仕草をした。アルマイトがそれを見落としたように、四人を急き立てた。
　「ま、今日はこのくらいで帰んな。明日来るんだったら、五時以降は病室にいるから、そん時来てくれ」
　四人はアルマイトに押される格好で、部屋を出て行った。
　
　翌日はガザン星人の地球侵略の事が、会議のメインテーマになった。
　そこで、彼らは自分達が係わった事を初めて客観的に見る事ができた。その背景の一端として“須羽ミツ夫拉致事件”の持つ重要性も、改めてクローズアップされる意味も理解できたのである。
　１号は、壇上に立って、レポートの抄文を朗読した。こうなってくると、却って度胸がつくもので、彼は（自分でも）上手くできたと思った。
　結局、結論としては「これからもガザン星人に対する監視を強化する」という事になった。

　「こんにちは、アルマイトさん」
　「何だ。五時以降にしてくれって言っただろう」
　「だって、見学は五時までなんだもん」
　その日の会議が終わってから、四人はまたリハビリ室にやって来たのだった。
　「発表見てたぞ。ＴＶでな。中々いい出来だったな」
　「あれ、見てたの？　なんか照れ臭いな」
　「当たり前じゃないか。全体会議は、ちゃんとモニターで流れるんだぞ」
　「うへぇ」
　四人は顔を見合わせた。
　「それにしても、明日で会議も終わりやな」
　「アルマイトさんは、まだ残るんでしょ？」
　アルマイトは、ちょっと考え込むような表情をした。しかし、すぐに頷くと言った。
　「明日、帰る前に来てくれ。話しときたい事がある」
　「はい」
　四人は頷いた。
　「ちよっと、見て！　夕日が！」
　突然、３号が叫んで窓を指した。そこには、もう少しで山の端に沈もうとしている夕日達があった。
　「もうすぐ、夕焼けになるね」
　「ああ」
　四人は、窓の傍に駆け寄った。だが、アルマイトは、それを見ようともせずに、手摺りに寄り掛かった。



＊１　　ｖｏｌ，３「ガザン星人の挑戦」参照

＊２　　「パーやんはケチじゃない」（アニメオリジナル）

＊３　　「ねん土細工と大統領」（アニメオリジナル）

＊４　　「枯葉のパーマン」（アニメオリジナル）