１２．　新たな誓い


　全体会議最終日。そして、バード星滞在最終日の朝。
　四人は部屋を念入りに掃除すると、荷物をまとめた。この荷物は四人が会議に出席中に、宇宙船に運び込んでくれるはずである。
　四人は、エクタルと落ち合うと、会議場に向かった。

　まず最初に、本部役員の選定が行なわれた。それと共に、脳卒中で倒れた司令官の後任選定が行なわれた。新司令官には、本部星区隊長のシャライが昇格した。

　閉会式自体は、三十分くらいのものである。だが、それが重大なのは、その前に、この一年間の優秀な星区等が発表されるからである。
　「それでは、これから優秀星区、及びグループの発表を行ないたいと思います」
　隊長が壇上に上がった。１号は、昨日のアルマイトの言葉を思い出した。
　（噂では、４２星区の入賞は固いと言うぞ）
　「最優秀星区。ガザン星人、前進基地壊滅の功績により、４２星区」
　拍手と共に、溜め息が漏れた。
　「ま、妥当な所だな。そうしなきゃ、あんなにじらされた割りが合わん。じゃ、行ってくるよ」
　エクタルは、呟くと壇上にテレポートした。
　１号は、あくびを噛み殺した。昨日遅くまで眠れなかったのがたたったのだろう。その耳に、ふと次のような声が入ってきた。
　「……４２星区」
　１号は、まだ、ぼぉっとしていた。周りから拍手と歓声が沸き起こった。
　「１号はん、何しとるんや？　早う下に！」
　「私達“最優秀パーマン”に選ばれたのよ！」
　三人が１号を急かした。
　「う、うん」
　彼は何が何だか分からないまま、慌てて壇上に駆け上がった。
　１号は、新司令官シャライの前に立った。彼は、大きな盾と小さな箱を１号に差し出した。
　「我々は、君達をパーマンの基本精神をよく実践した者として表彰する。この箱の中の物は、マスクに付けておきたまえ。最優秀パーマンの印だ」
　皆、というよりは、まるで１号に話し掛けるように司令官は言うと、盾と箱を渡した。
　一礼して、１号は引き下がった。まだ、つかんでいる盾がフッと消えてしまうのではないか、気が付くと椅子で居眠りしていただけなのではないのか、そんな気がしてならなかった。
　「盾は、我々で預かっておくよ」
　席に戻ってから、エクタルは１号の盾を預かった。
　「やれやれ。これで本部も、基地の一つも作ってくれるだろうよ」
　エクタルは、三つの盾を抱えながら言った。

　会議は終わった。早めに昼食をとると、五人はアルマイトの所に行った。
　彼は、ベッドの上に身を起こして、肩にガウンを引っ掛けていた。
　「ほら、見て。僕ら、こんな物貰っちゃった！」
　１号は、アルマイトに盾と箱の中身を見せた。盾には四人の姿がレリーフになっており、その下に、説明板がはめこんであった。箱の中に入っていたのは、バッジ形をしたブローチだった。銀製で、パイロットアイの部分に、それぞれのマスクの色をした宝石が入っていた。３号が鑑定家気取りで説明した。
　「この青いのはサファイアで、このオレンジはトパーズ。それから、この赤いのはルビーで、緑はエメラルドよ」
　「地球で鑑定したら、いくらくらいになるやろな？」
　４号は早速、実利を気にしだしていた。その間に、エクタルが進み出た。そして、二つの盾を見せた。
　「チッ、最優秀バードマンは逃したか。あれが取れれば、三冠王だったのに……」
　優秀賞の盾を見ながら、アルマイトはぼやいた。
　「お前がいたのに、これを取れただけでも奇跡だ」
　「そりゃないだろ、エタル」
　エクタルは笑って、答えなかった。アルマイトもつられて笑った。四人にとっては、久しぶりに聞く明るい笑い声だった。
　笑いがおさまった所で、エクタルは言った。
　「それじゃ、私は先に宇宙船の所に行ってるよ。パーマン達と仲良くやってくれ」
　エクタルは、部屋を出て行った。アルマイトはそれを見送った後、パーマン達の方に向き直り、言った。
　「昨日『話したい事がある』と言ったのを覚えてるか？」
　「はい」
　アルマイトは四人の返事を聞くと、サラリと言った。
　「実は今度、私がガザン星に赴任する事になったんだ」
　「えっ？！」
　四人は顔を見合わせた。そしてすぐ、
　「おめでとう！」
　「がんばってね！」
　「出発いつ？」
　という言葉を飛ばした。
　「…………」
　すると彼は、無言でテーブルの上から一枚の紙を取り上げて、四人に見せた。そこには、次のような文字があった。


　　　　　　辞　令

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　４２星区 バードマン７号
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　アルマイト＝カラコルム

　　　　　右の者、負傷全快後、直ちに九星区、ガザン第四グループに
　　　　所属することを要請する。


　　　　　　　　　　　　　　　　 ２８２年度　３月２４日付 　第２７号

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　本部人事部長 　　　　　ラハン・ルシア
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　本部総司令官（代） 　　ジャーゴル・シャライ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　本部宇宙星区隊長（代） リリイ・ハバルカ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　印



　「……ちょ、ちょっと、冗談にしちゃ、出来過ぎてるような……」
　４号が、呟くように言った。その後は、奇妙な沈黙が部屋を支配した。
　「酷い……。こんなのってないよ！」
　その大気を１号が破った。
　「停職なんてお飾りで、本当の罰はこれだったんだ！　そうでしょ？！　僕、許せない？！」
　「……いや、私が望んだんだ」
　「……嘘？！」
　四人の口から、ポロリと言葉がこぼれ落ちた。アルマイトは、辞令をテーブルの上に戻すと話し出した。
　「実は、もともと私は地球へ行くはずじゃなかったんだ。それが、内定していた７号が、病に倒れて出発できなくなってしまった。マインド・コントロールの上手い奴だったが、体までは支配できなかったという訳だ。本部では、４２星区バードマンの正任命が迫っていた上に、彼の回復がかんばしくなかったので、代理を選ぶ事になった。本部としては、４２星区はレベルの高い精神能力者を揃えたかったので、彼の代理にも、マインド・コントロールの上手い者を入れたかったらしい。だが中々、そういう人間はいない。マインド・コントロールは、かなりの精神統一力を必要とするから、たいてい上手い者はリーダー的なベテランで、そう簡単には動かせない。それに、年令も我々とずっと離れている為、バランスに欠けてしまう。だから本部は枠を広げて、他の六人と重ならない超能力を持っている者を選ぶ事にした。そこで“的撃ち”であり、かつ、ある程度（＊１）のマインド・コントロールのできた私が選ばれたという訳だ。それと共に、私は彼の役目であったパーマン選定の任務を引き継いだ。そして、そのまま７号として、ズルズル居着いてしまったようなものなんだ」
　遥か遠くで、宇宙船の飛び立つ音がした。もう早い星区は出発を始めているようだ。
　「だが、彼も回復した。私が新しい任地に赴く頃には、君達と顔合わせをすることだろう」
　「それじゃ今度から、その人が僕らのリーダーになるんですか？」
　「いや。エクタルが、君達のリーダーを引き継ぐ事になった。だが、どのみち、リーダーなんて関係ないだろ。最優秀パーマンの君達にはな」
　「意地悪！　そんな、つっけんどんに言うことないでしょ！」
　３号が叫んだ。
　「僕らはバードマンだから、今までやって来られたんだ。そうだろ？」
　１号は三人に目を向けた。三人は頷いた。
　「どうして、ガザン星に行きたいなんて、心にもない事を言ったの？　今では、銀河連邦からも締め出されている、危険な星だって聞いたよ。そんな所に行ったって、おっちょこちょいで、いい加減なバードマンが、やっていけるはずがないよ！」
　「…………」
　アルマイトは、小刻みに肩を震わせていた。そして、
　「お前ら、この期に及んで、まだ、俺を怒らせる気か？！　俺は、お前らと和やかに握手の一つもして別れたかった。だがもう、顔も見たくない！　とっとと消え失せろ！！」
　四人の姿は、部屋から消えた。アルマイトは、ベッドの上につっぷした。
　（やれやれ、チカラを爆発させちまったよ……。それにしても、俺って、つくづく駄目なリーダーだよな。これであいつらに徹底的に嫌われるのは間違いないしな……）

　一方、四人は一瞬のうちに、病室の廊下にテレポートさせられていた。
　「あんまりだよ、こんな仕打ち！　行こう！」
　１号は「動路」に飛び乗ると、歩き出した。三人は慌ててその後を追った。

　「準備は完了だ。もういつでも出発できるよ」
　宇宙船の所にやって来た四人に、エクタルはこう言った。
　「どうだ、アルジェと気持ちよく別れてこれたか？　後で『引き返せ』と言われたって、そうもいかんからな」
　「…………」
　エクタルは、黙り込んでしまった四人の顔を見ながら言った。
　「やれやれ。まぁ、まだ時間はある。好きなようにしろ」
　エクタルは、宇宙船の中に入った。
　「結局、私達最後まで、すれ違いだったわね」
　３号が、ポツリと呟いた。４号が続けて言う。
　「なぁ、みんな。もし、本当にバードマンはんが自分の意志でガザン星に行くとしたら、完璧にこれっきりやな」
　「まさか！」
　１号は叫んだ。
　「昨日ガザン星の酷さ、あんさんも散々聞かされたやろ？　地球みたいに、呑気にやっていられへんのや。もし、警察や軍に捕まったら、一巻の終わりや。無論、地球訪問なんて、夢のまた夢……」
　「だから……だから、どうだって言うんだよ！　バードマンが、どうなろうが僕の知った事か！」
　１号は叫ぶと、そっぽを向いた。だが、今度は３号が話をバトンタッチした。
　「役者として言わせて貰うけど、あれは絶対、演技じゃないわ。今、考えてみると、カラ元気出してたような気がするの。あの人、昨日からずっと、どうさよなら言おうか一生懸命考えてたんじゃないかしら？　それなのに私達があんな風にしたら、怒るのも無理ないわ」
　「じゃぁ、パー子はバードマンのとこへ、謝りに行くって言うのか？」
　「ええ。だってあの人、自分から（＊２）歩み寄れない人なんですもの。それに、今度の事では、悪いのは私達の方よ」
　「分かったよ。行くよ、行きゃいいんだろ！」
　１号は、こう叫びながら走り出した。
　「あーあ。プライド捨てきれないリーダーのお守りって、大変ね」
　３号が呟くと、４号がやり返した。
　「その内、きっと役にたつで」

　病室のドアは、ロックされてなかった。四人は、ノックをしたが返事がなかったので、そっと中に入った。
　アルマイトはベッドの中にいた。窓際に顔を向けて、眠っているようだ。ガウンが無造作にベッドの桟に引っ掛かっていた。
　「どうする？」
　１号が尋ねた。
　「もうあまり時間が無いわ。アルマイトさんには悪いけど、起きて貰おうかしら」
　「そしたら、また怒り出すんと違うか？」
　「それもそうね。でも……」
　と、３号が言いかけたその時、バッジの四重奏が病室に響いた。
　「おい、あと少しで出発だぞ。手早く済ましてくれ」
　通信は、瞬く間に切れた。だが、その呼び出し音は、アルマイトの目覚まし音に十分たる大きさだった。
　「……何だ？　俺、バッジは持ってきてないはず……ん？！」
　ここで四人を発見したアルマイトは、目が点になった。
　１号は、慌てて言った。
　「い、今のはエクタルさんが鳴らしたんです。僕らバードマンの目を覚ますつもりじゃ……」
　「分かってるよ」
　アルマイトは、ベットの上に身を起こした。
　「あの、それで僕ら、さっきの事、謝ろうと思って……」
　「さっき？　何かあったか？」
　涼しい顔で、アルマイトは言った。
　「そんな……。僕ら、本気で謝ろうと思って……」
　うろたえる１号のマントを３号が引っ張った。そして、耳打ちした。
　「バカね。アルマイトさんは『もう、その事は忘れよう』って言ってるのよ。もうちょっと気をきかせなさい」
　「う、うん。……あ、今の、何でもないんです」
　１号は慌てて取り繕った。そして、すかさず話し掛けた。
　「あの、それで尋ねたい事があるんです。ガザン星に行ったら、いつ地球に遊びに来れますか？」
　「さぁな。いつになったら行けるやら……。なにしろ、入るのも大変なら、出るのも大変な星なんだ。どっちも命がけなんだよ」
　四人は顔を見合わせた。
　「でも、一度休暇を取ったら、二十日くらい思い切って休めるはずだから、そん時は遊びに行くよ。約束する」
　アルマイトは、小指を出した。
　「日本流に、こいつでな」
　四人は、すぐにその意味を理解して、小指をからませた。

　「 ゆびきりげんまん、嘘ついたら、針千本のーます。ゆびきった」

　指を離すと、１号が言った。
　「こんなので、本当にきくのかな？」
　「大丈夫だよ。『さんまの頭も信心から』って言うだろ」
　アルマイトは、自信たっぷりに言った。が、
　「それ言うなら『いわし』でしょ」
　３号が訂正した。
　「信じる者は、救われる」
　４号が、彼にはそぐわない台詞を言ったので、爆笑の嵐がまき起こった。

　それから数分後。宇宙船の座席に四人は座っていた。宇宙船は本部空港を飛び立ち、大気圏を突き抜けようとしていた。
　１号には、最後まで残っている疑問があった。それは「アルマイトが、何故ガザン星行きを望んだのか」という事だった。
　「あの、エクタルさん」
　大気圏を抜けた後、１号はエクタルに話し掛けた。
　「何故、アルマイトさんは、ガザン星行きを望んだんですか？」
　「さぁな。俺はアルジェじゃないから、分からんな。思い当るような事はあるが……」
　「それでもいいから、教えて下さい」
　「いや、アルジェは、その話をするのを嫌がるからな。私が話すのも野暮というものだろう。でも、君が留学で気を付けていれば、思い当る事だ」
　「そうですか」
　なんだか、はぐらかされたような気分の１号だったが、
　（ま、留学の楽しみが、一つ増えたと思えばいいや）
　と思って、その事は一時忘れることにした。

　帰り道の事は、詳しく話さなくてもいいだろう。ともかく約半日後に（ワープしたのだ）宇宙船は地球上空に着いた。四人は、エクタルにテレポートして貰うと真っすぐ家に帰った。

　ベランダに降りたった１号は、家の中に入る前に、夜空を眺めた。月は無かったが、ガルゴルは無数の星々の中に埋もれて、見当を付けることも出来なかった。
　バード星の穏やかな気候から比べると、まだ蒸し暑かったが、１号はその中に、秋口の涼しさの気配を感じた。
　彼は一瞬のうちに、街が夏から秋、そして冬へと装いを変えるのを見たような気がした。
　（いつしか夏は過ぎ、秋が来て、過ぎて行き、冬が来る。そして、僕はもう一度旅立つ。アルマイトさんが、僕を選んだ事を誇りに思えるような、そして本部が僕に贈ったブローチに恥じないような、そういうパーマンになる為に……）
　１号は、そっと心の中で呟くと、部屋の中に入った。



＊１　　「パーマンセットの秘密」参照

＊２　　「パーマンの親子ゲンカ？」参照




　　　　　　　　　　　　Ｐ・Ｐ・Ｓ・Ｓ　ｖｏｌ，４「続・バード星への道」　ＥＮＤ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｖｏｌ，５「パーマン留学記」に続く







あとがき


　『ああ、パラレルワールドにして、本当に良かった』
　これが、私の第一の感想です。なにせ今回は、六人の仲間を出しちゃうわ、変身銃はハッタリにしちゃうわ（でも、あの人なら、それぐらいやりかねないと思いません？　「タマより弱く」てんとう虫コミックス〈パーマン〉ｖｏｌ，５でも、とんでもない前言撤回をしてるんですから。詳しくは、ｖｏｌ，５参照）もう、ムチャクチャとお思いの方もいらっしゃることでしょう。ま、そこはパラレルワールドという事で、お許し下さい。
　今回、私がリキ入れて書いたのは、勿論アルマイトです。もう、すっかり「哀愁のリーダー」になってしまった感がありますが、そんな彼を好いてくれる読者も出来たみたいで、私としては、とても嬉しいです。（でも、設定変える訳にはいかないの。ゴメンネ）
　今回は、キャラの手綱を上手く取る事ができなくて、早々とアルマイトの過去は見せてしまうし（本当は、あそこまで書く気はなかったんです）全体会議が終わるまで、アルマイトとパーマン達は再会させず、アルマイトの判決も教えるつもりはなかったのに、皆さんがお読みになったような結果になってしまったし。ま、それはそれで読み返してみると『これで、良かったんだ』という気になってくるから、不思議です。
　それからバード星の位置についてですが、これも本シリーズではオリジナルの位置をとっています。そもそも、これは原作では、ケンタウリ・プロキシマ（地球に一番近い恒星）の惑星。アニメの「夢の星バード星」では、白鳥座の翼の端から二番目の星（どちらの端からかは、見落としてしまいました。そもそも、これを私が白鳥座六十一番星と勘違いしたのが、今回の位置につながっている訳です）小学館のＴＶコミックス（だったと思う）「パーマン」３には、プロキオン（こいぬ座）の惑星（これは、プロキシマを勘違いしたのかも知れません）と、三通りの答えがあるのです。それを私が勘違いした白鳥座六十一番星の資料集めに専念し、かなりいい資料も集まったので、今さら変えるのも惜しく、これをバード星の太陽にしました。だから、連星なのも、ゲッセネマの存在も（これは恒星だとも言われています。でも、地球からは見えない不可視星なので、確かめる事は、現在できません）本当です。
　さて、次回作「パーマン留学記」では、題名通り、バード星に留学した１号の日記＋地球に残ったコピーの日記を平行形式で進めたいと思います。どうぞ、お楽しみに。


　参考文献、及び人
　　　中野 繁　著　　「四季の天体観測」　誠文堂新光社
　　　その他の恒星に関する書物、医学辞典、百科事典
　　　その他　先生、友人方

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｓ６２，８，２７
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１１時２０分２３秒
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
ウェブ公開にあたり、句読点、不自然な文章等に手を入れています。(2015.11.1)