１１．パーマンの歴史
留学５７日目 晴れ ダリムン
今日から、【宇宙地理】の時間が２時間、【宇宙歴史】に変わった。これは文字通り、宇宙全体（といっても銀河系中心だが）の歴史を学ぶものである。
最初の授業は『パーマンの歴史』というビデオを見る事になった。リューイ先生が、ビデオデッキのスイッチを押した。
（ここからの文章は、変則的にビデオのシーン・シナリオ・ミツ夫の日記の三つを同時進行で進めていきます。繁雑かと思いますが、ご了承下さい)
《シーン・シナリオ》
１，タイトル『パーマンの歴史』
２，各星区のパーマン状況
パーマン −宇宙特別警察隊− が結成されてから、今年で１０周年になる。この間に、パーマンの設置された星区は４０、人数は４万２千人となった。パーマンの歴史は、バードマンの歴史を抜きにしては語れない。そこで、我々はバードマンの歴史を足早に見てから、パーマンの歴史に入りたいと思う。
《日記》
最初に、現在のパーマン分布状況が示された。他の星区が何十人もいるのに４２星区が『４人』というのは、何とも寂しかった。
３，記録フィルム
−独立戦争、バードマン設立記念式典−
バードマン −バード星特別警察隊−が結成されたのは、バード歴８２年（＊１）、バード星人の祖先が、バードをガザンの支配から独立させてすぐの事だった。その頃はまだ治安が悪く、ガザンの攻撃にも備えなければならなかった。そこでバードマンは、多分に自衛隊的色合いを帯びていた。
《日記》
次に記録フィルムが流れた。激しい戦闘、掲げられたバードの旗（＊２）、そしてバードマンの設立記念式典などである。
４，初期
［バードマンの姿、細かい分析図が示される］
バードマンの姿は、現在とは全く違っていた。セットはまだ発明されておらず、マスクの役割はパワードスーツが果たしていた。 パワードスーツはバード開拓時に利用された物を改良した物で、パーマロゲンの利用効率が悪く、せいぜい３０％程しか利用できなかった。なお、現在のバードマンの制服はその名残である。バッジのみが現在の姿と同じで、トランシーバー機能だけを有していた。
《日記》
その制服を見て僕はビックリした。マントとマスクがないのである。その疑問はすぐに解けた。次に初期バードマンの制服についての解説が始まったからだ。
今バードマン達が着ている服が、昔はマスクの役割をしていたのだという。つまり、正体を秘密にする必要はなかったのだ。まことに羨ましい限りだ。しかし、性能は段違いだと言っていた。
５，バードマン本部［現在とは全く違っている］
本部は、四方を海に囲まれ、そそり立つ崖で二重に外界から遮断された、シセル島に置かれた。将来の発展を見込んで、空港は海上に張り出された。無論、そこも厳重に警護された。
《日記》
そして初期の本部。やはり三百年も経つと、想像も付かないほど変わっているもので、僕達は興味深くフィルムを眺めた。
６，記録フィルム［バードマン達が活躍する所］
先も言ったとおり、初期バードマンには自衛隊的な色合いが強く、警察やレスキュー隊の役割は二の次だった。しかし、ガザンとの関係が落ち着いて来るにつれて、バードマンは特別警察隊の名にふさわしい物になってきた。
《日記》
記録フィルムが延々と続いてやや疲れた頃になって、今度は制服の変遷が順を追って映り始めた。
７，バードマンの制服変遷
バードマンの制服は、次第に改良されていった。９３年に、バッジに酸素ボンベの機能が付け加えられたのを皮切りに、１０８年には、反重力の制御装置の付いたマントが開発されて、次第に現在の姿に近づいてきた。だが、マスクの登場は、１２７年になるまで待たなくてはならなかった。
《日記》
マスクは１２７年に初めて作られ、マントは１０８年に作られたという。その第１号のマントには、僕達と同じで切れ込みがなかった。
８，マスクの変遷
初めは赤外線アイと、翻訳装置、トランスフィルター（＊３）のみで、パワーについては、まだパワードスーツに任されていた。だが、パワードスーツは改良されたものの、まだ５０％程の力しか出ず、最大限の力を発揮させるためには、直接視床下部にパーマロゲンを送るしかないという事が分かったため、開発班は、マスクにパワーチューブをはめ込む研究を急いだ。その努力が実ったのは、１７８年のことだった。ここに、現在のマスクの原型が完成したのである。ただし、それでもパーマロゲンの利用効率は７５％だった。また、骨格強化の仕組みも不十分だった。
《日記》
また、マスクも変わった形をしていた。耳あてが僕達と同じ形で、トランスフィルターが大きめだった。ちなみに耳あてが大きくなったのは、各種の言語を収納するためだそうだ。
９，コピーロボットの開発
セットができた事によって、バードマンは次第に正体を秘密にしていくようになった。それは、警察官の資格を持つ者以外にもバードマンとして活躍する者が現れ、本業と分離して活動したいという要求が起こったためであった。それを可能にするために、本部は本業の身代わりをするロボットを与えた。これは、各個人の容姿に似せて作るオーダーロボットだったため、莫大な費用がかかった。
そのため、開発班は“コピーロボット”と後に呼ばれることになる新しい身代わりロボットの開発を始めた。これは１９０年に完成し、すぐに全員に支給された。
これによって、バードマンの正体は完全に秘密化し、セットも各自保管するようになった。
《日記》
次に、コピーロボットの話になった。コピーロボットができた事によって、バードマンの正体は秘密化していったのだという。その代わり、警察官でなくとも容易にバードマンになれるようになったのだ。
初期のコピーロボットは現在とそっくりの形だったが、僕達ぐらいの大きさだった。
１０，研究の様子
その間にもセットの改良は続けられていた。２００年には、パーマロゲンの利用効率を１００％、骨格をダイヤモンド並の強度にし、チップのマイクロ化によって大幅に言語収容力をアップしたマスクが完成した。また、反重力力場をよりパワーアップしたマントも完成した。
これでセットはほぼ完全になり、開発班の研究は精神能力の方へと傾いていった。
《日記》
結局、セットが現在とほぼ同じ姿になったのは、２００年のことだという。
１１，式典の様子
２１７年、バードが提唱者となって、銀河系内の１８惑星国家、及び１２個の自治コロニーが“銀河連邦”を結成した。それと共にバードマンは、銀河連邦の“特別依頼警察隊”に昇格した。
《日記》
退屈な話の展開に、僕は思わず欠伸をしそうになった。
ところがその次のシーンで、いきなり一つの惑星が映し出されたのだ。その字幕には、『ガザン星』と書かれてあった。
１２，ガザン星
ところが、バードの順調な発展を妨げるものがあった。銀河連邦の一員“ガザン”である。彼等の中には、下り坂になったガザンを飛び出し、ついに銀河連邦の中心にまでなったバードに、異常なまでの憎しみを持つ者があった。彼等は、何とかバードに打撃を与えるチャンスはないかと、うかがっていた。
《日記》
僕は、ガザン星がバードに今でも敵意を抱いているという話を聞きながら（バードも、ガザンに今でも敵意を抱いているんじゃなかろうか？）と思った。
ガザン星を始めて見る訳だが、大気は赤っぽく、荒れ果てた様子だった。都市も一応未来都市の形をしてはいるが、一目で勢いの無さが分かる星だった。これなら、バードをうらやむ訳も分かるような気がする。
１３，宇宙船、海、新聞、ＴＶニュース資料
それは、バード歴２６６年の出来事だった。バード航宙株式会社のプリストン空港発ガザン星リナザ空港行きの１３５型宇宙船が、ガザン星ベスリー岬近くの海上で、ベスリー軍事基地領空を侵犯したとして、ガザン星側の戦闘機に撃墜されたのだ。乗客、乗員１７２名は、全員死亡した。
バード側は何とか真相を究明しようとしたが、海中に沈んだ記録計器類も痛めつけられ、わずかにパイロットが錯乱状態に陥った事が推測されるだけだった。それだけではガザン星人に対する疑いが晴れた訳ではない。しかし、なにぶんにも証拠が少ないので、事実を探るのは難しかった。
《日記》
次に、またショッキングな場面が現れた。一面の青い海。その一角がどす黒くなっていて、宇宙船の残骸が漂っているのだ。
２２６年、ガザン星の戦闘機によって撃ち落とされたのだ。地球で言う“大韓航空機撃墜事件”（＊４）みたいな感じだ。だが問題は、その次の場面だった。
ニュースのビデオらしく、現場の海に遺族の人々が花などを供えているのが映ったのだ。その中の一組の母子の姿が僕の目にとまった。
それはまだ若い母親と７〜８歳ぐらいの男の子で、男の子は母親の手をしっかりと握って海を見つめていた。母親は大きな花束を海に向かって投げ込んだ。
その男の子の横顔を見た時、ファイルで見たアルマイトさんの写真が僕の脳裏に浮かび上がってきた。
（……まさか……）
アルマイトさんは昔、こんな話をしてくれた事があった。
「僕の両親には、もう会いたくたって会えないんだ。なぜなら、父さんは８つの時、母さんは１０の時に、銀の糸が切れてしまったからな」（＊５）
その言葉と、ガザン星へ自分の意志で行ったアルマイトさん。そして、今のフィルム……。
僕の頭に、大それた一つの考えが沸き上がってきた。だが、僕は慌てて否定した。
（今、結論を出すのは早すぎる。そうだ、アルマイトさんの子供の頃を知っているというハガンさんなら……）
１４，銀河連邦会議
［何かを読み上げる議長、ガザン星代表、ネームプレートを取り上げ立ち去る］
その謎が解けたのは、それから５年後の事だった。ガザン星の精神能力者が、マインドコントロールでパイロットの精神を錯乱させ、ワザと領空侵犯をさせて宇宙船を撃墜したのだ。バードマン達の努力がなければ、たぶんこれは永久に明かされなかったことだろう。
これを知らされた銀河連邦は会議を開き、ガザン星を問いつめた。しかし、彼等は事実を否定した。銀河連邦は規則に基づき、ガザン星を銀河連邦から追放した。それ以後ガザンとバードは国交を絶ち、現在もその状態が続いている。
《日記》
その間に、場面は切り替わっていた。
それは、全体会議で僕達が教わった事だった。ガザン星人の追放場面である。あの時にも撃墜事件のことは聞いたはずなのに、アルマイトさんとは全く結びつかなかったのだ。
１５，宣言書を読み上げる司令官
２７０年、このような事件を未然に防ぐために、銀河連邦は宇宙特別警察隊（通称：パーマン）の設立を決定した。
これは、バードマンの手によって少年少女の中から候補者を選び、バードマンのセットをベースにしたパーマンセットを与えて、各担当地域のパトロールに加担させ、ゆくゆくは彼等をリーダーにした一大組織を作ろうというものだった。これによってバードマンは、パーマン達が主導権を握るまでは従来通りの活動を続け、やがてはパーマンに合併することが決まった。
１６，パーマンセット
それから２年後。完成したパーマンセットと、より小型化されたコピーロボットを持って、最初の選定バードマンが飛び立った。彼等によって選ばれた者が、初代のパーマンになったのだ。
銀河連邦加盟国に１グループずつ、１２０名がその栄誉を担った。
《日記》
次に、やっとパーマン誕生の話になった。
やはり、パーマンはバードマンの代理として、そしてやがてはバードマンの後を引き継ぐために作られたのだ。またこの時に、コピーの小型化も実現した。秘密を守るのも容易になり、コピー自体を隠すのも楽になったという訳だ。
１７，パーマン達の増加状況
初代パーマンの選定は大成功だった。また各地からパーマン設置の強い要望があったため、翌年からはパーマン選定数は急激に増えていった。そして２８０年からは、銀河連邦外の星にもパーマンを設置することが決まった。
１８，最初の留学生達
２７７年、初代パーマン達の中で更に選抜された４７名が、本部養成学校に留学した。彼等は２年後に卒業し、各星区のリーダーとなって活躍している。
１９，パーマン達の活躍する姿
現在も、パーマン達は正義を守って日夜活躍している。パーマンがバードマンに取って代わる日はまだ遠いが、その日は確実に近づいている。これからもパーマンは、銀河連邦の組織と共に、銀河系中に見られることになるだろう。
２０，ＥＮＤ
《日記》
これを見て、僕が分かった事は（パーマンの歴史は、これから作られる。そして、それを作るのは僕達だ）という事だった。
授業が済んでから僕は、まっすぐハガンさんの所へ行った。
ハガンさんは教育部長室にいるはずだ。僕は、本部の役員室フロアーに向かう『動路』に乗った。でも、いざフロアーに入るとやはり緊張するもので、僕は、何度も反対方向の『動路』に飛び乗りたくなった。
僕は『教育部長室』と書かれたドアの前で『動路』を降りた。すると、すぐにドアが開いたので、僕はタジッとなった。
「やぁ、良く来たね」
「は、はぁ……」
中に足を踏み入れた僕にハガンさんは、ソファーを勧めてから言った。
「一体、どうしたんだね？」
僕は一つ深呼吸すると、話し出した。
「あの……１３５便撃墜事件の事で、聞きたい事があるんですけど」
「資料室へ行けば、たくさん資料があるぞ。それとも、私でなければ分からない事か？」
「……ええ、まぁ」
曖昧に頷いたその時だ。僕は、生まれて初めて感じる震えに襲われた。何となく、心の中に何かが入り込んで、心を裏返しにされたような感じだった。
「すまない。言いにくそうだったから、君の心を読ませて貰った」
ハガンさんが、頭を下げながら言った。僕はまだ呆然としていた。
「答えて下さるんですか？」
ハガンさんは、ソファーに僕と向かい合って座った。そしておもむろに話し始めた。
「君の想像通り、あの少年はアルマイト君だ。彼はあの時パイロットとして乗り組んでいた父を亡くしたんだ」
僕はあのビデオのナレーションを思い出し、父が疑われた事によって、どんなにか辛い気持ちで幼い日々を過ごしたことだろうと、複雑な気持ちになった。
「彼は、どうしてもガザンに行きたかったようだ。やはり、あの事件の真相を確かめ、父の魂を慰めてやりたかったんだろう。我々が持っているのは推論だけだからな。
だが、彼もバードマンになって変わったな。実は、出発する前に私の所に来たんだ。その時彼は『ガザンとバードが、何とかして国交を回復することが出来ないか、その方法を見つけてきたい』と言ったんだ。そりゃあ、バードとガザンの間のもつれた歴史を解けるのなら、我々もそれに越したことはないんだが」
僕は、突然アルマイトさんが、遠い世界の人になってしまったような気持ちがした。
「『分からない』って顔してるな。確かに難しい話だ。我々の数百年来の念願だからな。バードとがザンが手を取り合うことは……」
「……そうだったんですか」
「私が話せるのは、ここまでだ。後は、アルマイト君自身に聞くんだな」
「はい、ありがとうございました」
僕はソファーから立ち上がって、ハガンさんに一礼した。そこで僕は、もう一つの疑問を思い出した。
「もう一つ尋ねていいですか？」
「ああ」
「ハガンさんは、どうして幼い頃のアルマイトさんを知ってるんですか？」
その途端、ハガンさんの顔がゆがんだ。そして、ぶっきらぼうに注意した。
「人の秘密を嗅ぎ回るのは良くないぞ、オカ」
僕は、突然いたたまれなくなるような気持ちになった。
「し、失礼します」
僕は慌てて教育部長室を飛び出した。遠くの棟から風に乗って、始業のチャイムが流れてきた。
僕はハガンさんが恐くなった。あれがあの優しいハガンさんかと思ったほど、あの時の顔は恐かった。まるで禁断の場をかいま見たような気がした。きっとあれは『アルマイトさんの過去を探るのはよせ』と言いたかったのだろう。
でも、なぜ……。
＊１ バードの暦は、バード発見時から始まっている。
＊２ バードの旗は、赤（太陽）、青（空と水）、緑（植物）、黒（土と宇宙）の４色である。
＊３ マスクの「目」の部分に当たる。翻訳文章を映し出す装置。
＊４ 古い方。「金賢姫」の方は、この時まだ起こっていない。
＊５ ｖｏｌ，１【現代へ帰りたい】参照。「銀の糸……」は、エリシャ教流の「死」の表現である。
