１３．超能力発見？！


　留学６７日目　くもり　イグムン

　今日、かねてから話があった超エスパー、サライラ・ケネスさんが、ついに我がクラスにやって来たのだ。
　彼女は、“バード航宙船撃墜事件”解決にも関わった人として有名だ。
　「おい俺、昨日あの人見たぜ」
　リリル君が早速情報を話し始めた。
　「水色のマントに白いマスク姿。瞳はオカ君みたいに真っ黒でさ、白い膚に青い髪が良くマッチしてるんだ。年は２５、６と見たな。いやぁ綺麗だったぜ」
　後で聞いた話だが、ケネスさんはバード人の中でも珍しい、三人種混血人（イメゲナ）なんだそうだ。
　これを聞いた僕たちの期待は、いやがおうにも高まった。なぜなら、美人を見るのは、男なら大抵嬉しい物だからだ（女性の反応は知らないが……）。
　その次の時間。いよいよ“彼女”がやって来た。しかも、なかなか凝った登場をしてくれたのだ。
　「今日はかねてから言っていた通り、サライラ・ケネスさんに、精神能力の実演をして貰う。滅多にない機会だから、みんな心して見るように。それでは、ケネスさんにご登場願おう」
　その途端、先生の脇の空間がゆがんだ。やがて、空間が元通りになると同時に、僕らの前にリリル君が言ったのと同じ容姿の女性が現れた。
　「本部直属バードマン４号、サライラ・ケネスです。よろしくお願いします」
　思わず、教室中にどよめきの声が沸き上がった。
　ちなみに、本部直属バードマンというのは、各星区付きのグループの手に負えなくなった事件や、本部視察旅行などの時にだけ出てくる、超エキスパートのグループだ。
　「皆さんは、これまでずっと精神能力について学んできました。この中には、実際に精神能力を使いこなせる人もいることでしょう。精神能力は、誰でも持っているものですが、たまたま、私は他の人々よりも恵まれた精神能力を持っています。これから、その一端をお見せしたいと思います」
　僕たちは、拍手した。
　「でも、まずその前に、このクラスのエスパーに、実演して貰いましょう。私は、このクラスの誰がエスパーか知らされていないので、私が指名する人は、どういう精神能力を持っているか、そして、レベルはどれくらいなのか、みんなに言ってから実演して下さい。それでは」
　ケネスさんは、みんなを見回しながら言った。
　「ヨムナルさん」
　「は、はい」
１２星区のヨムナルさんは、立ち上がると前に出ようとした。それをケネスさんがとどめた。
　「ちょっと待って。そこでいいわよ」
　「はい。私は、テレポートが出来て、レベルは４です」
　ヨムナルさんは、目をつぶると念じた。次の瞬間、彼女はケネスさんの脇に立っていた。
　「ありがとう。あなたはきっと分解型ね。訓練すればもっと強力になるわ」
　こんな調子で、幾人かの精神能力が披露された。
　「それじゃ、この１人で終わりにしましょう。ええと、……オカ君」
　「えっ？！」
　僕は、自分が呼ばれたことに面食らった。
　「あ、あの僕、精神能力なんて、ありません」
　「どうしたの？　謙遜しないでやってごらんなさい」
　ケネスさんは急かす。
　「本当に僕、精神能力なんて無いんです」
　「おかしいわね。私、さっきから強いオーラを感じているんだけど……」
　ケネスさんは首を傾げた。
　「まぁ、いいわ。座ってください。では、私の実演に入らせていただきます」
　そして、ケネスさんの実演が始まった。一つ一つの精神能力について説明しながら、様々なことをしてくれる。僕たちはただビックリしながら見守るだけだった。それをいちいち書くときりがないから省略するけど、ケネスさんが、バードマン一、いや（もしかしたら）宇宙一の超エスパーであるという事は、すぐに納得できた。

　その日の授業が終わった後、僕は先生に言われた。
　「急いで“能力測定室”へ行きなさい。ケネスさんがお呼びだ」
　「ケネスさん？！」
　僕はビックリしたが、すぐに、
　（ははん、さっきの事だな）
　と思った。が、そこでザード君達が冷やかしたのだ。
　「よっ、親善大使！」
　「早く帰って来いよ！　待ってるぜ！」
　僕は、その声を無視して歩き出した。

　“能力測定室”というのは、文字通り精神能力測定に使用する部屋だ。僕が足を踏み入れるのは初めてである。中にはケネスさんが座っていた。
　「いらっしゃい。あなたの精神能力について、ちょっと気になったから呼び出したの」
　「は、はい」
　僕は、ケネスさんの前にあった椅子に腰掛けた。
　「まず、あなたの精神能力体験について聞きたいんだけど」
　「その事なら、さっき」
　「本当に、どんな些細な事でいいわ。『もしかしたら思い違いかも知れない』と思った出来事があったら、話してちょうだい」
　僕は考えた。思い出そうとした。そして、一つの事に思い当たった。
　「……赤外線アイを使って、透視みたいな事ができた事があったような……」
　「そう。……それじゃ、やっぱりあのレポート通りね」
　「レポート？！」
　僕には、ケネスさんの呟きが分からなかった。
　「後で見せるわ。その前に」
　ケネスさんは、僕を見つめた。
　「指数検査をさせて貰えるかしら？」
　「はい」
　僕が言い終わるか終わらない内に、ケネスさんの顔がボヤけてきた。そして、急速に気が遠くなった。

　再び僕が気が付いた時には、指数検査は終わっていた。
　「２１０よ。前と同じだったわ（＊１）」
　僕は、ファイルの数字を思い出して頷いた。
　「実はね、ここにあなたの精神能力に関する調査レポートを持っているの。ちょっと見て、何か思い出したり、気付いたりした事があったら、言ってくれないかしら？」
　「はい」
　ケネスさんは、僕に数枚のコピーを手渡した。読み始めて僕はビックリした。それは、アルマイトさんの文だったからだ。


　　　　　　　　　　＊＊＊精神能力指数調査の結果と考察＊＊＊

　１号を催眠下に置き、測定した結果、２１０という高数値が出た。２号は１２０、３号は１４０、４号は１３０であった。１号の場合、普段の彼には全くと言っていいほど、その傾向は見られない。これは、催眠下において見られる精神の解放の極端な例かも知れない。これについては今後、観察を続けていく事が必要であろう。以後、このレポートを《指数調査１》と仮に名付けることにする。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　７号


　　　　　　　　　　　　　　＊＊＊指数調査２＊＊＊

　１号に少しずつではあるが、精神能力の芽が出てきたようだ。
　透視─────赤外線アイを用いたら、コンクリート壁の向こうが見えたという。た
　　　　　　　　だ、当人は赤外線アイを用いたためだと思い込んでいる（＊２）。
　テレパシー──２号と他の３人との意志疎通は、ジェスチャーで行われることが多いと　　　　　　　　
　　　　　　　　前に書いたが、最近は、ジェスチャー無しでも意志疎通が出来るように
　　　　　　　　なってきた。特に、共に行動することが多い１・２号同士は、かなり複
　　　　　　　　雑な思考も分かり合えるようになってきている。これは、テレパシー
　　　　　　　　の使用による物なのかは、彼等の意識がないので、結論はまだ出せな
　　　　　　　　いが、一応ここに挙げておく。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　７号


　　　　　　　　　　　　　　＊＊＊指数調査３＊＊＊

　パーマン達から、パワーアップの要請があったのを契機に、試験用機械を取り付ける。４号の“ターボチャージャーマント”は別格として、２号に“テレパシー音声変換装置”、３号に“超知覚強化装置聴覚型”、１号に“同視覚型”を渡した。
　結果はまず良好。ただし、１号はパワーを最高にしたら、人間の骨まで見えて困ったという。だが、これは予想通りだ。恐らく１号の精神能力の目覚めは、透視力からになるだろう（＊３）。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　７号


　　　　　　　　　　　　　　＊＊＊指数調査４＊＊＊

　今日、改めて指数検査をする。２１０変わらず。
　この一連の調査の結果、私は１号については、このままそっとしておく事にした。なぜなら、２１０という高数値に見合うだけの精神能力を発達させるには、彼はまだ幼すぎるからである。また、こういう遅発型の常とされるコントロール力も、恐らく未熟であろうと推測したためでもある。この件は、じっくりと腰を据えて見守ることにするつもりである。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　７号


　「私も、彼の意見に賛成なの」
　僕が紙を置いたのを見たケネスさんは、話し出した。
　「あなたは“遅発型”、つまり、なかなか表には現れないけど、一度現れるとコントロールするのが極めて難しい、厄介な型なの。だから、強い意志の力を持たないと、大変な事になってしまうのよ。今回はこのままにしておいて、長期留学の時にでも、ゆっくり開発してみたらどうかしら？」
　「はぁ、僕は別に、どうでもいいですけど……」
　ケネスさんが、クスッと笑った。
　「まぁ無理もないわよね。いきなりの話ですもの。でも、これだけは覚えといて。もし地球へ帰ってから、精神能力が現れたら、すぐにバードマン達に相談するのよ。いいわね？」
　「はい」
　「本当に、わざわざ来てくれたのにごめんなさいね」
　ケネスさんは、すまなそうに言った。
　「いいんです。それより」
　僕は、ためらいながら尋ねた。
　「“バード航宙船撃墜事件”の謎を解いたのは、ケネスさんなんでしょ？　どうやって解いたんですか？」
　ケネスさんは、ちょっとビックリしたような顔をしたが、すぐに頷くと話し始めた。
　「私が１０歳の時、あの事件が起こりました。その時、私は既に強力な精神能力を持っていました。しかし、両親は私にそれを使うのを差し止めていました。
　事件の前夜、私は夢を見ました。それは、１隻の宇宙船に強い思念がぶつかり、宇宙船がそれに捕らえられ、最後に戦闘機に撃墜される夢でした。私は、すぐに両親に夢の中身を話し、彼等は本部にそれを知らせました。後で知った事ですが、両親はバードマンだったので、報告も容易だったのです。
　本部は、私の予知夢を重く見まして、１３５便を始め、現在宙航中の船に警告をしようとしました。その時なんです、１３５便が異常な動きを始めたのは……」
　ケネスさんは、一旦言葉を切った。その途端、僕の脳裏に、思念の網から飛び出そうともがく宇宙船の姿が映った。映像は、宇宙船が撃墜された所でプツリと切れた。
　「私の予知夢によって、この事件の背景については想像が付いていましたが、まだ推測の段階だったので、本部は大事をとって公表しませんでした。そのため、パイロットの遺族の方々には、酷く迷惑をかけてしまったけれど……」
　アルマイト母子の姿が、電光のように浮かんできた。
　「この推論を公表できたのは、ガザン星に入った、勇敢なバードマン達の努力があったからです。私も及ばずながら、その一員になりましたが、彼等の足手まといにならぬようにするのが、精一杯でした。その中で我々は、思念を発したエスパーは、その直後に殺されたこと、全てを命令したのは、軍中枢であること、その目的は、バードをそして銀河連邦を壊滅させ、ガザン星の権力を増大させるという事を知りました。
　証拠資料をそろえたので、私達は本部に連絡し、本部は銀河連邦裁判部に、ガザン星を告発しました。その後の事は、あなたも知っての通りです。
　そして、捜査班解散後、私は正式にバードマンに任命されたのです。私が１６歳のことでした。だから私は、パーマンの先駆けでもあるのかも知れません。でも、私のした事はほんの些細な事で、あの時、予知夢を両親が本気にしてくれなかったら、こう上手くは進まなかったでしょうね」
　ケネスさんは、立ち上がった。
　「さぁ、もういいでしょ？　もうお帰りなさい」
　「はい。……ありがとうございました」
　僕はケネスさんに見送られて、外に出た。

　部屋のドアを開けて僕はビックリした。なんとザード君達が、５〜６人もの集団で僕を出迎えてくれたからだ。
　「よっ、親善大使のご帰還！」
　これは、ザード君だ。
　「して、会談の結果は？」
　リリル君も、調子に乗って尋ねる。
　「う〜ん、なかなか実りある会談でしたよ。まず、自分の精神能力は２１０の遅発型でね……」
　「２１０？！　俺だって１５０だぞ！　何かの間違いじゃ……」
　軽いテレパシーの使えるサイザー君が叫んだ。
　「でも、ファイルもそうなってるし……。それから、ケネスさんの撃墜事件時の活躍話を聞かせて貰ってね……」
　「ずるいぞ、オカ！　俺達にも話せ！！」
　たちまち、部屋は騒音のるつぼと化した。



＊１　　精神能力指数は１００が基準である。

＊２　　原作付き『生きうめパーマン』より。ただし、赤外線アイの使用は、アニメ版のみで、使用法については、明らかに脚本者のミスであろう。

＊３　　アニメオリジナル『もっとほしいパーマンパワー』より。１号の「パワー最大……」は、彼が女湯を覗こうとした時の出来事である（アホなやつ）。