１６．二重の虹


　留学１００日目　マオムン　晴れ時々くもり

　今日で、このリーダー研修留学も終わりだ。昨夜のお別れパーティの楽しい思い出が、今では遠い昔の事のように感じる。
　終業式が済むと、いよいよ出発だ。いざバードを離れるとなると、やはり寂しくてたまらない。ここで出会った人達の内、また巡り会えるのは何人だろう？　そう思うと、僕の胸は痛んだ。
　ウィリー君、ザード君を始め、大勢の友人達が僕に別れを言いに来た。僕も一人一人を握手して、名残を惜しんだ。
　部屋に戻ると、ケビン君が待っていた。
　「今日で、お別れだね」
　「うん」
　ケビン君は、僕に何かを差し出した。
　「これ、君にあげるよ」
　その手には、一本のペンが握られていた。
　「ありがとう……待って、僕も……」
　僕は、急いでポケットに入れていたシャーペンを取り出した。
　「これ、お返しだよ」
　「ありがとう。大事にするよ」
　ケビン君は、シャーペンをポケットにしまった。僕も、ペンをポケットに入れた。

　空港に続く道を僕は、ゆっくりと歩いて行った。空港では、エクタルさんが待っているはずだ。僕は最初この道を歩いた時の事を思い出しながら、胸がキュンと痛むのを感じた。

　空港に着くと、まず４２星区艇の姿を探した。それは、すぐに見つかった。なぜなら、他の宇宙船とは、全く違った形をしていた上に、その船腹にはハッキリと“４２”の数字があったからだ。
　（あれは、テレパシー型だ！）
　どうやら早速新宇宙船が配備されたらしい。その下で、エクタルさんが手を振っている。僕は、一目散に飛び出した。

　「１号、お前ついてるぞ」
　エクタルさんは、ニッコリ笑って言った。
　「我々は、４２星区で最初の乗組員だ。勿論、操縦もさせてやるぞ」
　「ヤッター！」
　僕は思わず、我を忘れて叫んだ。がね今思うと、あれでエクタルさんは、僕に別れの湿っぽさを忘れるようにしむけてくれたのだろう。
　ともかく、僕が、その喜びに浸ってる間に、宇宙船は飛び立った。
　僕がまた寂しさを感じたのは、大気圏を突破して、ふとスクリーンに映る宇宙の中のバード星を見た時だった。しかも、僕は寂しさと一緒に、頭がキリキリするような不安をも感じたのだった。
　（もしかしたら、僕は、もう二度と、この星を見れなくなるのではなかろうか……）
　突然、そんなとんでもない考えが沸き上がってきて、僕は、自分で自分が分からなくなった。


　地球歴１９８７年４月２３日　木曜日

　僕は、帰ってきた。今、僕の部屋でこの文を書いている。宇宙船の収納も兼ねて、新基地を見てきた。なかなかいい所だ。ガザン星人様々という所だろう。個室こそたいして広くはないが、ベットの寝心地は最高だ。
　「お茶、飲んでいかないか？」
　とイリメンさんが誘ったが、僕はまた改めて来ることにして、エクタルさんにテレポートして貰った。

　僕がテレポートされたのは、東京上空だった。ちょうど桜の散る時期らしくて、道のあちこちに桜の花びらが散っていた。
　僕は、土手の桜並木の脇を飛んでみた。すると、どっと花びらが散りかかってきた。
　（ああ、僕は帰ってきたんだな。この日本に）
　そんな喜びが、沸々と僕の頃に沸き上がってきた。
　それから、また少し上がって飛んでいると、前方に雲があるのが見える。どうやら、あの下は雨が降っているらしい。通り雨ってヤツだ。
　僕は、やむを得ず、雲の上を飛び越えることにした。家は、もうすぐだ。
　（行き過ぎたかな？）
　雲を追い越した時、僕は後ろを振り返った。そして、思わず叫んだ。
　「二重の虹だ！！」
　今まで、何度か虹を見たが、こんな美しい虹は初めてだ。上の虹の方が、下の虹よりも濃かった。
　（これは、幸せの予感なのだろうか？　それとも幸せの終わりを告げる物なのだろうか……？）
　消えゆく虹を見ている内に、僕の心に自然とこんな言葉が沸き上がってきた。

　さて、この留学記も終わりに近づいた。そろそろ、コピー、君が学校から帰ってくる時間だ。
　自転車のブレーキの音がする。そして、自転車を止める音。走る君の足音。
　ほら、今、君がドアを開けた。


　　　　　　　　　　　　Ｐ・Ｐ・Ｓ・Ｓ　ｖｏｌ，５「パーマン留学記」　ＥＮＤ

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