１１，　この一発に命を賭けて

　ここは、本部司令船のブリッジ。ケネスが２人の行方を探していた。やがて彼女は顔を上げると、周りの人々に言った。
「２人はパール星軍本部の独房に入れられています。ペンダントは１号の首にはありません」
「やっぱり、捕まっちゃったのね」
　３号が、失望の声を出した。ケネスが後を続けた。
「しかし、１号の体の中に、今までに無いオーラを感じます。きっかけさえ掴めば、それは、すさまじいパワーとなって、彼の体からほとばしり出る事でしょう」
　ケネスは目を開くと言った。
「隊長、私には１号こそが、この戦いを終らせるような予感がするのです。だから、私達が下手に手出しをしてはいけないような気がするのです」
「それでは、君は１号の超能力に賭けるというのだな？」
「賭けるというよりも、これは私の予知です」
「そうか」
　隊長は、重々しく諾いた。そして、彼女等に言った。
「部屋に下がりたまえ」
「分かりました。さ、行きましょう」
　ケネスは三人を促すと、ドアに向かって歩き出した。隊長は、つい今しがたまでケネスが座っていた椅子に座ると、顎を抱えた。

　その頃、独房の中でミツ夫は食事を取っていた。手は自由になっていたものの、足にはかせが付いていた。
　これを持って来た隊員は、「今度来る時には、お前さんのリーダーの運命が決っているだろうよ」と言っていた。その言葉が彼の心を締め付けていた。
　やがて、食べ終るとミツ夫は食器を片付けた。そして、また思考の海へと落ちて行った。しかし、いくらも経たない内に、さっきの隊員が食器を取りに来た。だが、彼はポケットから小型のテレビの様な物を取り出すと言った。
「ほら、こいつを見るんだ」
　１号が覗き込むと、画面が明るくなった。そこに、さっきと同じ姿のアルマイトが写っていた。
「話も出来るぜ。やってみるか？」
　隊員の誘いにミツ夫は諾くと、画面に向かって話しかけた。
「バードマン。そっちはもう、ご飯食べ終った？」
　すると、隊員の言った通り声が返って来た。
「ああ。そっちは、まともな物、食べさせて貰えたか？」
「うん。特に美味しくはなかったけど」
　隊員に横目を使いながら、ミツ夫はこう答えた。そして、アルマイトの顔を見つめながらいきなりこう言った。
「でも、バードマンって、以外にいい顔してるんだね」
「お世辞か、それは？」
　この一言で、独房内に一瞬、笑い声が響いた。そして、アルマイトはこう続けた。
「そうか。こっちはかせを片方外されて、ジュース一本渡されただけだ。だが、それ一本で栄養は十分あるんだとさ」
「それで、味の方は？」
「結論として、あれはどうやっても私の口には合わないな。しかも、それが最後の食事だっていうんだから、淋しいな」
　（最後の食事……）
　ミツ夫の心に、さっきの隊員の言葉が蘇って来た。
　その時、画面からガチャリという音が響いて来た。次の瞬間、画面がガレームンの姿を写し出した。
「アルマイト君、君の処置が決まった」
　ガレームンは次の言葉を顔色一つ変えずに言った。
「死刑だ」
　途端に、ミツ夫の顔から血の気が無くなった。アルマイトは一言尋ねた。
「理由は？」
「人質は２人は要らん。１人で十分だ」
　（冷血漢！）
　流石のアルマイトも、この言葉は口には出さなかった。
「但し、それではあまり可哀相なのでな。一回だけ、チャンスを与えてやる事にした」
　この辺りで、ミツ夫はやっと我に返った。そして、ガレームンを見つめた。
「君は、電気椅子で処刑される。しかし、その前にその上に有るリモコンスイッチを銃で撃ち抜けば、君は助かる。勿論、そうでない場合は、処刑は執行される」
　（やった！　日が出て来たぞ！）
　アルマイトは、思わず心の中で叫んだ。だが、その喜びは一瞬のものだった。何故なら、ガレームンが画面を指さしてこう言ったからだ。
「そして、それをやるのは、１号だ」
　
「僕が……」
　ミツ夫の脳裏に、あの様々な戦闘シーンが蘇って来た。
「そうそう、くどいようだが、チャンスは一度きりだ。そして、その時は１レム後だ」
「何故、そんなに早く……」
　アルマイトの問いに、ガレームンはまたすげなく言った。
「我々には時間が無い。それでは、心の整理をしておくのだな」
　立ち去るガレームンを写した画面がパッと消えた。そして、隊員は、
「それじゃ、心の準備をしておくんだな」
と言い残すと、独房を出て行った。

　アルマイトの運命の別れ道が、刻々と迫って来ているその頃、隊長は他の船団に向けて、こういう命令を発していた。
「全船団に告ぐ。先発隊を先頭に、パール星から５００タインの所まで接近し、そこで待機する。向こうに混乱の動きが起こったら、先発隊はパール星内に侵入する。残りは、内外部からの攻撃に備え待機し、敵が来たら応戦する。奴等は、人質を取っているからタイミングを失うと、大変な事になる。総て、私の指示に従う事」

　一方、パーマン達の方は、ルウの所でパール星についての話を聞いていた。
「｛パール星では、血のつながりなんて無いも同然なんだ。人間の精子や卵子は全て定期的に採取されて、人工受精センターに送られ、そこで遺伝子を調べて、良くない物は捨て、良いもの同士を掛け合わせて受精させるのだ。それは全て、コンピューターに任されている。しかし、私は意図的に時に優秀な科学者の精子と卵子を掛け合わせて生まれた人間なんだ｝」
「でも、人工受精しても、育つのはお母さんのお腹の中なんでしょ？」
　３号が尋ねると、ルウは悲しそうな顔をして、こう答えた。
「｛いや、その結果生まれた生命は、人工子宮で育てられるのだ。そして、ある一定の期間を過ぎるとそこから出され、養父母の手に渡されるのだ｝」
「そう……。何だか淋しいわね」
　３号もそう言うと、顔を曇らせた。その時だ。
　船内が、急に騒がしくなって来た。ケネスが言った。
「貴方達は部屋に戻った方がいいわ。さぁ、早く」
　三人は、急き立てられるままに部屋を出た。途端に、丁度向こうからやって来たイムールと鉢合せしてしまった。
　イムールは、いかにもビックリしたという様な表情の三人を見ながら、口早にこう言った。
「我々は、パール星に向かって動き出した。この船は先発隊の先頭に立って進んでいる。つまり、もう少しで２人に再会する事が出来るんだ。だから、もう部屋で大人しくしてるんだ。私は、任務に戻るから」
「はい」
　三人は返事をすると“動路”に飛び乗った。

　時は次第に過ぎて行く。アルマイトは少しでも眠っておこうと思ったが、すぐに思考の世界に引き戻されてしまうので、眠る事が出来なかった。
　（なぁに、もうすぐ俺には永遠の眠りが訪れる……。１号には悪いが、あのヘッピリ腰じゃ、見込み無さそうだからなぁ……。しかし、本部も薄情だよな……。ケネスさんの超能力を借りれば、我々が何処にいるのか位、すぐ分かると思うがな……）
　ここでアルマイトの脳裏に、ケネスのイメージが写った。
　（ケネスさん……。あぁ、こんな事なら一度、好きだと言っとくべきだったよ……。どうせ振られるだろうけど。そうすれば、未練残さずに逝けたのに……）（＊１）
　その時、ドアが開いた。３人程の所員が中に入って来た。そして、１人が言った。
「さぁ、時間だ」
「ま、待ってくれ！」
　アルマイトは、思わず叫んだ。
「パール星には、最後の願いというのは無いのか？！」
「まぁ、願いによりけりだがな」
　隊員が答えた。アルマイトは言った。
「それじゃ、トイレに行かせてくれ！」

　ミツ夫が連れられて来た時、アルマイトは、もう電気椅子に座っていた。しかし、彼との間は壁で遮られていた。壁からミツ夫の所まで、１５メートルは有っただろうか。
　肩を叩かれて、彼はハッとした。背後にガレームンが居た。彼は、丁度その時、開いた壁の一部を指して、こう言った。
「ほら、最後の別れに行って来い」
　ミツ夫は、弾ける様にアルマイトの側へ行った。後から、１人の隊員が彼の後を追って行った。
　ミツ夫はアルマイトの前に立った。アルマイトは静かに顔を上げると、ミツ夫の顔を見つめた。その目を見た瞬間、電気椅子にかけられるとはこんな物かという様なシビレが、ミツ夫の全身に走った。それは、死を覚悟した“大人の目”だった。彼は、そのシビレを解こうとして、少しずつ話し始めた。
「ごめんなさい……。あの時、僕が超能力を使えれば、こんな事にはならなかったのに……」
「いや、あのお影で、ある事が分かったよ。“パーマン”じゃ、“フェイスマン（＊２）”は通用しないって事がな」
　アルマイトの目が、いつもの目に戻った。ミツ夫は、救われた様な気持ちになった。
「１号、きっと奴等は君を人質として、また、研究の対象として、それなりに扱ってくれるだろう。だが、どんな時でも“パーマンの名に恥じない”ようしっかりやってくれたまえ。きっと、事態が変わる時が来る。それまでの辛抱だ」
「はい」
　ミツ夫は素直に言った。
「それから、１号」
　アルマイトの目が、また“大人の目”になって、ミツ夫を見つめた。
「撃つ時には、ためらわずに、しっかりと撃て。自分に暗示をかけるんだ。私を傷つける事など恐れるんじゃない。奴等にむざむざ殺されるよりは、１号、君の心のこもった１発で殺される方が、１００万倍もいいからな」
　（こ・わ・い！）
　ミツ夫は、思わず心の中で叫んだ。そして、発作的にベルトで留められているアルマイトの手にしがみついた。が、その時、彼は気付いた。その手が、自分と同じ位冷たく、同じ位震えているのに……。
「おい、もうその位でいいだろう？」
　隊員が、ミツ夫の肩を掴んで引っ張った。ミツ夫は、アルマイトの目を見つめると、大人しく手を離した。そして、後ろを向いた。その彼に、アルマイトが声をかけた。
「頑張って来い、パーマン１号！」
「はい！」
　目頭が熱くなるのを感じながら、ミツ夫は返事をすると、歩き出した。

　その頃、本部司令船を先頭にした船団は、ポイントに到着していた。
　隊長は、ブリッジに来ていたケネスに声をかけた。
「ケネス君。二人はどうしているかね？」
「分かりました。見てみましょう」
　ケネスはその場で目をつぶると、透視を始めた。しばらくすると、ケネスは喋り始めた。
「カラコルムさんが、椅子に縛り付けられています。
そこから５０ニタ（＊３）程の所に１号が居ます。後ろには、ガレームンを始め、数人の隊員達の姿も見えます。あ、ガレームンが１号に銃を渡して……」
「何だと？！」
　隊長が声を上げた。
「ケネス君。そのまま透視を続けなさい。そして、変化が起きたら、すぐ伝えなさい」
「分かりました」
　ケネスは返事をすると、透視を続けた。

　ミツ夫は、ガレームンから銃を渡された。ガレームンはこう言った。
「エネルギーは１発分しか入ってない。もし、そこから１歩でも動いたら、私はこのスイッチ入れる。そうしたら、折角のチャンスも水の泡だ。分かるな？」
　ミツ夫は、コクリと諾くと、渡された銃を握り締めた。そうしながら、彼は心の中で、
　（僕は“的撃ち”のパーマンなんだ。こんな事位、朝飯前なんだ）
と、自分に暗示をかけていた。
「さぁ、やってくれたまえ」
　ガレームンはそう言うと、ミツ夫から離れた。ミツ夫は、銃口をリモコンスイッチに向けた。しかし、銃口はフラフラと揺れ動き照準は定まらない。ミツ夫の顔に、汗が吹き出て来た。
　沈黙。そして、あまりにも重い責任。ｅｔｃ……。
　次の瞬間、ミツ夫は自分が意識を失うのを感じた。そして、体の底から沸き上がって来る未知の力も……。